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2015年01月05日

心疾患を防ぐためにスタチン療法を推奨 米国糖尿病学会の新GL

 米国糖尿病学会(ADA)は、「糖尿病の診療に関するガイドライン2015年度版」(Standards of Medical Care in Diabetes 2015)を公開した。ガイドイランは毎年改訂されており、今回の改訂では、コレステロール低下薬である「スタチン」を全ての糖尿病患者に推奨することが盛り込まれた。
スタチン療法を推奨 糖尿病患者は心疾患を発症するリスクが高い
 米国糖尿病学会(ADA)の新しい治療ガイドラインでは、糖尿病患者は心疾患を発症するリスクが高いとして、低強度〜高強度のスタチン療法を推奨している。

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)は共同で2013年に、スタチンの効果と安全性を広く呼びかけるガイドラインを発表した。ADAのガイドラインでも、これに足並みを揃えた内容に変更した。

 「糖尿病患者では動脈硬化が原因となる心筋梗塞などの心疾患のリスクが上昇している。積極的なスタチン療法が推奨される」と、ADAの医療専門家委員の委員長であるリチャード グラント氏は言う。

 心疾患の危険因子は「高血糖」「脂質異常症」「高血圧」「喫煙」「運動不足」だ。これらの因子を改善するとともに、積極的なスタチン療法を推奨している。

 スタチン系薬剤には、総コレステロールとLDL(悪玉)コレステロールを低下させ、動脈硬化の進展を抑制する強力な作用がある。

 米国では、心疾患が糖尿病患者の死因の第1位になっている。糖尿病のある人は、ない人に比べ、心筋梗塞や心臓発作などの心疾患を起こす危険性が2倍から4倍に上昇する。

 「糖尿病患者では、心筋梗塞のリスクが心臓病患者と同じくらいに上昇している。脂質異常症を改善することが心疾患を予防するために効果的だ。心疾患の危険性をコントロールするために、治療に積極的に取り組む必要がある」と、グラント氏は説明している。

 具体的には「心血管疾患のある全ての糖尿病患者では、生活習慣の改善に加えて高強度のスタチン療法を行う」「心血管疾患の危険因子のない40〜75歳の糖尿病患者では、生活習慣の改善に加えて中強度のスタチン療法を検討する」「心血管疾患の危険因子のある糖尿病患者では、生活習慣の改善に加えて中強度〜高強度のスタチン療法を検討する」などの内容になっている。

 ただし、若い糖尿病患者や、多剤服用しておりスタチンによる相互作用が起こる可能性のある高齢の患者には、スタチン療法を推奨していない。75歳以上の高齢者についても、スタチン治療を行う効果についてのデータが十分でないため、慎重な配慮を要するとしている。

 今回のガイドライン改訂について「糖尿病の治療では、患者自身が積極的な参加することが望ましい。糖尿病患者は、自分のHbA1c値、血圧値、コレステロール値、体重などを知っておくべきだ。スタチンを服用してない患者は、主治医にスタチン療法が必要でないか、確かめた方が良い」と、ニューヨーク市の内分泌代謝専門医はコメントを公開した。

最低血圧の目標値を90mmHgに引き上げ
 新しいガイドラインでは、拡張期血圧(最低血圧)の目標値も80mmHgから90mmHgに引き上げられたが、達成可能であれば80mmHgが適切である可能性があると示された。収縮期血圧(最高血圧)の目標値は従来通り140mmHgとされた。

 「最低血圧をより下げた方が良いという観察研究が発表されたが、目標値を90mmHgにしても十分な効果が得られるという無作為抽出研究の結果を支持した」と、グラント氏は述べている。

 さらに、全ての糖尿病患者に運動を習慣として行うよう推奨している。日中に体を動かして家事やウォーキングなどをすることも血糖コントロールに役立つことから、体を動かさないでいる時間が続く場合は90分ごとに運動した方が好ましいとしている。

 レジスタンス運動を行うことも奨励している。医学的な運動をできない理由がない限り、週に2回以上のレジスタンス運動が好ましいとしている。

 19歳以下の1型糖尿病患者が「HbA1c7.5%未満」を維持することも推奨された。以前のガイドラインでは「6歳以下 HbA1c8.5%未満」、「6〜12歳 同8.0%未満」、「思春期の若者 同7.5%未満」を推奨していたが、今回の改訂で目標値はより厳しくなった。

 「DCCT」と「EDIC」では、HbA1c7%を達成する強化療法により、細小血管合併症を減らせることが明らかになっている。

アジア系米国人はBMI23の段階で糖尿病リスクが上昇
 さらに、過体重・肥満者における2型糖尿病スクリーニング対象者のBMI(体格指数)のカットオフ値は、アジア系米国人に限って25から23に引き下げられた。

 アジア系米国人は白人に比べ、より低いBMIでも糖尿病リスクが上昇することは臨床的に知られていた。米国では中国や日本、韓国などの東アジアや東南アジア、南アジアからの移民が急増している。

 ハワイと南太平洋諸島に在住しているアジア系米国人を対象とした研究では、BMI25未満であっても、アジア系では白人よりも2型糖尿病の発症率が2倍に上昇することが示された。

 「今回の改訂によって、潜在的な糖尿病リスクの高いアジア人を適切に発見できるようになる」と、ジョスリン糖尿病センターのウィリアム スウ氏は説明している。

New Standards of Care Provide Guidelines for Statin Use for People with Diabetes to Prevent Heart Disease(米国糖尿病学会 2014年12月23日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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