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2016年07月21日

日本食に認知症を予防する効果 認知症を予防するための食事療法

 認知症の発症に食事スタイルが多く関わっていることが、最近の研究で明らかになっている。米国では認知症予防の効果のある「マインド ダイエット」と呼ばれる新しい食事スタイルが開発されている。日本でも東北大学の研究により、日本食に認知症予防の効果があることが判明した。
 糖尿病の人は認知症を発症しやすいことが知られている。九州大学が日本の久山町で行っている調査では、糖尿病の人は認知症を発症するリスクは、糖尿病でない人に比べ1.7倍に上昇することが示された。アルツハイマー病に限ると、リスクは2倍に上昇する。血糖コントロールを改善するとともに、認知症にも対策することが必要だ。

認知症を予防するために効果的な食事スタイル
 「マインド ダイエット」と呼ばれる新しい食事スタイルが、アルツハイマー病などの認知症を予防するのに効果的であることが、米国のラッシュ大学医療センターの研究で明らかになった。

 認知症を予防するために効果的な食事スタイルについてはこれまでも研究が行われているが、ラッシュ大学医療センターが行った研究によると、「マインド ダイエット」と呼ばれる食事スタイルは、ほどほどに守っていても効果を得られる点が従来の食事スタイルと異なり画期的だという。

 認知症を予防するための食事スタイルは、糖尿病や肥満を予防・改善するための食事療法と共通する部分が多い。糖尿病や高血圧、肥満などを改善することが、認知症の予防にも役立ちそうだ。
アルツハイマー病の発症リスクが50%以上低下
 医学誌「アルツハイマー病と認知症」に発表された研究で、「マインド ダイエット」を実行した人では、アルツハイマー病の発症リスクが5割以上減少することが明らかになった。ほどほどに実行した人でも発症リスクを4割近く減少した。

 この研究は、1997年に開始された大規模研究「ラッシュ記憶加齢プロジェクト」の参加者923人を対象に行ったもの。研究チームは2004?2013年に、参加者の食事内容を調べ、認知症の発症を追跡して調査した。

 期間中に144人がアルツハイマー病を発症したが、「マインド ダイエット」を実行した人では、発症リスクが53%低下した。ほどほどに実行した人でも、発症リスクが35%低下した。

 なお、健康的な食事スタイルとして知られる「地中海式ダイエット」と「DASHダイエット」でも、アルツハイマー病はそれぞれ54%と39%低下したが、ほどほどに実行した人では予防効果はほとんど得られなかった。
「地中海式ダイエット」と「DASHダイエット」のハイブリッド
 アルツハイマー病は、「アミロイドβ」という毒性の高いタンパク質が脳に蓄積し、神経細胞が障害を受け、神経細胞が死んでいくことで引き起こされると考えられている。生活スタイルや環境、遺伝的な要因などが発症に関与するが、食習慣も重要な要因となる。

 「マインド ダイエット」は、米ラッシュ大学の栄養疫学部が開発した食事スタイルで、健康的な食事として知られる「地中海式ダイエット」と「DASHダイエット」の長所を組み合せたものだ。

 「地中海式ダイエット」は、野菜・果物・豆類などの植物性食品と、地中海地域の特産のオリーブオイル、新鮮な魚介類などを組み合わせた食事スタイルで、肥満やメタボの予防効果があることが知られる。一方、「DASHダイエット」は高血圧の予防・改善のために開発された食事スタイルで、玄米や全粒パンなどの全粒穀物や、低脂肪の肉や乳製品、ナッツや豆類などを積極的にとることが勧められている。

 2つの食事法のハイブリッドである「マインド ダイエット」は、「地中海食とDASH食による神経変性を遅延させるための介入」(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)の頭文字をとって「マインド」(MIND)と名付けられた。
10種類の良い食品と5種類の悪い食品
 「マインド ダイエット」の方法はシンプルで、10種類の健康に良い食品を積極的にとり、5種類の健康に悪い食品をなるべく避けるというものだ。

 積極的にとりたい10種類の食品とは――
・ 葉菜類(キャベツ・ホウレンソウ・レタス・ケール・コマツナ・ハクサイなど)
・ 根菜類(ニンジン・トマト・ブロッコリー・カブ・ゴボウなど)
・ 豆類(大豆・インゲン・グリーンピースなど)
・ 全粒穀物(小麦の全粒粉や玄米など)
・ 不飽和脂肪酸の多い植物オイル(オリーブオイルなど)
・ 魚(マグロ、カツオ、サーモン、サバなど)
・ チキン(脂肪の多い皮の部分を取り除く)
・ ナッツ類(クルミ・アーモンド・ピスタチオなど)
・ ベリー
・ ワイン

 このうち、ベリーは果物なかで唯一取り上げられており、「アントシアニン」や「ビタミンC」などが豊富に含まれ、動脈硬化・がん・老化・免疫機能の低下などを引き起こす活性酸素を抑える抗酸化作用があるとされている。

 また、赤ワインに含まれるポリフェノールである「レスベラトロール」にも抗酸化作用がある。飲み過ぎには注意が必要だが、1日1杯を飲むと心筋梗塞や認知症などの予防効果を得られることが、過去の研究で確かめられている。

 反対になるべく控えた方が良い5種類の食品は次の通り――
・ 赤身肉
・ バター・マーガリン
・ チーズ
・ ペイストリーやケーキ、お菓子
・ 油で揚げた食品、ファストフード

 脂身の多い肉やバター・チーズなどの乳製品など、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は、動脈硬化を進展させ脳の健康にも悪いので、なりべく控えた方が良い。

 今回の研究は介入試験ではないので、「マインド ダイエット」の効果については今後の研究で確かめる必要があるが、研究者は糖尿病、高血圧、肥満などの改善にも役立つ食事スタイルとみている。

日本食で認知症を予防 認知症が20%減少
 日本食を多く摂っている人では認知症の発症が少ないことが、日本人を対象とした前向きコホート研究で明らかになっている。この研究は、東北大学社会医学講座公衆衛生学分野の遠又靖丈氏によるもので、医学誌「journals of gerontology」オンライン版に発表された。

 「大崎コホート研究」は、宮城県大崎保健所管内1市13町に居住する40~79歳の国民健康保険加入者を対象とした、1994年に開始されたコホート研究。東北大学が生活習慣に関する調査と、死亡やがんなどの罹患の状況に加えて、医療費を追跡して調査している。

 研究チームは、大崎コホート研究に参加した65歳以上の高齢者1万4,402人を5.7年間追跡して調査した。期間中に9.0%が認知症を発症した。

 研究チームは、食物の摂取頻度について39項目の質問をして、食事を「日本食」「動物性食品」「高乳製品」の3つのパターンに分けた。日本食パターンは、魚・野菜・海草・漬物・大豆製品・きのこ・いも・果物などを多く摂取しており、動物性食品パターンは肉類を多く摂取していた。それぞれの食事パターンを点数化し、4分位によって4グループに分け、認知症発生との関連を調べた。

 その結果、日本食パターンの度合いが高い高齢者では認知症発生リスクが20%低下していた。一方、動物性食品パターンと高乳製品パターンでは、認知症発生との有意な関連がみられなかった。

 日本食パターンの内容は、先に挙げた「マインド ダイエット」と共通するものが多い。日本食は、高血圧、糖尿病、脂質異常症の予防・改善にも効果があることが確かめられている。どんな食事をすると認知症を予防できる可能性があるか、今後の研究に期待がかかる。

New Mind Diet May Significantly Protect Against Alzheimer's Disease(ラッシュ大学 2015年3月16日)
東北大学社会医学講座公衆衛生学分野
Dietary Patterns and Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study(journals of gerontology 2016年6月29日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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