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糖尿病3分間ラーニング
運動が糖尿病の認知症リスクを抑制 運動療法は脳を変える
2016年12月15日

 筑波大学などの研究チームは、中強度の有酸素運動によって、脳内のエネルギー代謝が改善し、認知機能の低下を抑えられることを確かめた。
 血糖コントロールが不良の状態が続くと、認知症のリスクが高まるが、運動が認知症の予防に役立つことが判明した。
運動は2型糖尿病の認知機能の改善に効果的
 中強度の有酸素運動が、脳内のエネルギー代謝を改善し、認知機能の低下を抑えることが、筑波大学などの研究で確かめられた。運動が脳の活動のエネルギー源となる乳酸の代謝を改善するという。

 研究チームは、2型糖尿病のラットを用いて、2型糖尿病に合併する認知機能の低下を、4週間の中強度の運動で改善できることを確認した。さらに、糖尿病のラットの海馬では乳酸輸送能が低下するが、運動によって回復できることが判明した。

 研究は、筑波大学体育系の征矢英昭教授、島 孟氏、米国のロックフェラー大学のBruce S.McEwen教授、スペインのカハル研究所のIgnacio Torres-Aleman所長らの研究チームによるもの。

 2型糖尿病に合併する認知機能低下の要因を脳の糖代謝から検討したはじめての研究で、欧州糖尿病学会(EASD)が発行する医学誌「Diabetologia」に発表された。

糖代謝異常は脳の糖の処理能力を低下させる
 糖尿病の人が血糖コントロールが不良の状態が続くと、記憶にかかわる脳の「海馬」という部分の萎縮が進むことが、福岡県久山町の住民を対象とした九州大学の研究チームにより明らかにされている。

 久山町研究では、糖尿病のある人ではそうでない人に比べ、アルツハイマー病の発症リスクが2.1倍に上昇することが示された。

 アルツハイマー病などの認知機能の低下の要因は、脳内で記憶を司る「海馬」で、エネルギー源である「糖」が使われなくなることだ。糖が不足すると脳はエネルギー不足になり、十分に働くことはできない。

 脳の活動に必要な糖質はグリコーゲンとして貯蔵されており、脳神経が働く重要なエネルギー源となる。神経活動が活性化した際やエネルギー需要が増大した際に、グリコーゲンは乳酸へ分解され、この乳酸が神経細胞へと供給される。脳内のグリコーゲンのほとんどはグリア細胞の一種であるアストロサイトに貯蔵されている。

 乳酸は脳において重要なエネルギーとなる。乳酸の代謝をコントロールする物質として、「乳酸輸送担体」(MCT)という物質がある。MCTは全身のあらゆる細胞にあり、乳酸やケトン体などの輸送に関与している。そのうち「MCT2」は神経細胞にあり、神経細胞内へ乳酸を取り込ませる働きをしている。

 糖尿病のもっとも特徴的な症状である糖代謝異常によって、脳内の糖の処理能力が低下することが分かっているが、それに加えて、海馬の神経でのグリコーゲン由来の乳酸利用が認知機能の維持に必要であることが最近の研究で分かってきた。

 この乳酸の利用が低下することが、2型糖尿病に合併する認知機能の低下の一因となっていると考えられている。
運動が脳の海馬の乳酸代謝を改善する
 征矢教授の研究チームはこれまでの研究で、健康なラットに運動をさせると、海馬のグリコーゲン代謝が高められ、認知機能が向上することを確かめていた。

 一方で、2型糖尿病のラットでは、海馬にあるグリコーゲン由来の乳酸が利用されにくくなり、認知機能が低下する。研究チームは、運動を習慣的に行うことでこの問題を解消でき、認知機能の低下が合併するのを抑えられるのではないかと考えた。

 そこで研究チームは、2型糖尿病のラットと健康なラットの、海馬でのグリコーゲン貯蔵量とMCT2の発現量を比較した。

 海馬の認知機能の維持に不可欠とされる正常な乳酸利用経路では、神経活動に呼応してグリコーゲンが乳酸へと分解され、この乳酸がMCT2を介して神経細胞内へ輸送される。

 この2つの因子を調べた結果、糖尿病のラットの海馬ではグリコーゲン貯蔵量が多く、MCT2発現量が低下していることを明らかにした。

 海馬のMCT2発現量の低下による神経細胞への乳酸輸送の低下が、2型糖尿病に伴った認知機能低下の重要な因子であり、結果としてグリコーゲン貯蔵量が高まることが分かった。

 さらに、糖尿病のラットに、30分間の中強度の運動を週5日、4週間行わせると、神経活動が活性化し、海馬のグリコーゲンが減少し、海馬内の乳酸が増加することを確かめた。

 運動は認知機能を改善させ、海馬のグリコーゲンの補償的増加を促し、低下していたMCT2発現量を回復させることが明らかになった。
2型糖尿病の脳を標的とした運動療法を発展
 これらの結果から、MCT2を介したグリコーゲン由来の乳酸輸送の低下が2型糖尿病に合併する認知機能低下の一因であり、4週間の中強度運動によりそれを治療できることが示された。

 糖尿病が認知症の発症を促すもうひとつのメカニズムは、海馬のBDNFの濃度の低下や、神経細胞の炎症などだ。

 「BDNF」は脳由来神経栄養因子と呼ばれる、海馬に多く含まれるタンパク質の一種で、神経細胞の動きを活発化させている。BDNFが神経細胞(ニューロン)や、脳に栄養を送る血管の形成を促している。

 「2型糖尿病患者では認知症の発症リスクが高まる。運動療法は血糖コントロールを改善するだけでなく、脳の障害を取り除く役にも立つ。今回の研究では、運動が脳の海馬の乳酸代謝を改善することがはじめて示された。2型糖尿病の脳を標的とした運動療法を発展させる足がかりとなる」と、研究者は述べている。

筑波大学体育系
Moderate exercise ameliorates dysregulated hippocampal glycometabolism and memory function in a rat model of type 2 diabetes(中強度運動は2型糖尿病ラットで低下する海馬グリコゲン代謝と認知機能を改善する)(Diabetologia 2016年12月8日)
[ Terahata ]
カテゴリー :  ライフスタイル  運動療法  糖尿病合併症  

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