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2016年12月22日

糖尿病の根治に光 マイクロRNAによりβ細胞が再生 血糖値が低下

 体のさまざまな生命活動に関与している「マイクロRNA」を血液に投与することで、膵臓のβ細胞が増殖し、インスリン分泌が改善し、糖尿病マウスの高血糖を改善するのに、東北大学の研究チームが成功した。
β細胞の再生を促す因子を発見
 研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野の山田哲也准教授、突田壮平助教、片桐秀樹教授らの研究チームによるもの。成果は、医学誌「EBioMedicine」オンライン版に発表された。

 糖尿病は、血糖値をコントロールするインスリンの分泌の低下や、インスリンに対する感受性が低下することで引き起こされる疾患だ。インスリンを分泌するβ細胞の自己再生能は低く、このことが糖尿病の根治を困難としている大きな原因となっている。

 研究チームは、これまでに骨髄移植がβ細胞の再生を促進することを確認しており、骨髄細胞から分泌される何らかの因子が、β細胞の再生を促進していると考えた。そこで今回の研究で、「マイクロRNA」に着目した。
「マイクロRNA」を標的とした研究が活発に
 ヒトの体のさまざまな生命現象を、タンパク質が担っている。タンパク質を遺伝子から合成するときに、遺伝子情報を転写し、新たにタンパク質をつくる(遺伝子情報を翻訳する)仲介役を果たすのがRNAだ。

 「マイクロRNA」(miRNA)は、塩基対の長さがおよそ22塩基のとても小さいRNA。タンパク質をつくるのに関与せず、それ単独で働くことはないが、標的となる遺伝子からのタンパク質合成を抑制することで、遺伝子の発現を調節する機能を担っている。

 血液などの体液にあり、健康な人の血液にはおよそ500〜600種類の「マイクロRNA」がある。遺伝子をコントロールし、個体の発生から細胞分化・増殖まで、さまざまな生命活動に関与していると考えられている。

 「マイクロRNA」を標的とした先進的な研究が増えており、例えば、「マイクロRNA」を測定することで、がんを簡単に早期診断できる画期的な次世代診断システムの開発を目指した産官学のプロジェクトが進められている。
「マイクロRNA」を投与するとβ細胞が増殖、血糖値が低下
 さまざまな細胞から分泌される細胞外小胞(エクソソーム)は、「マイクロRNA」を含んでいる。エクソソームが液性因子として体内を循環し、miRNA などの核酸を他の細胞へ受け渡すことで、細胞間の情報伝達を媒介していることが分かっている。

 研究チームは今回の研究で、骨髄移植マウスでみられるβ細胞の再生メカニズムとして、エクソソームを介する細胞間の「マイクロRNA」の伝達が重要な役割を担っていることを発見した。さらに、2種類の「マイクロRNA」(miRNA-106bとmiRNA-222)が、β細胞の再生に関わっていることを突き止めた。

 この2種類の「マイクロRNA」を、インスリン分泌低下によって発症した糖尿病マウスに静脈注射で投与したところ、β細胞が増殖し、インスリン分泌が回復し、血糖値が改善することを確認した。

 これらの結果から、「miRNA-106bとmiRNA-222によるβ細胞の再生促進が、糖尿病の根治につながる新規の治療法となる可能性がある」と、研究チームは結論している。

東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野
MicroRNAs 106b and 222 Improve Hyperglycemia in a Mouse Model of Insulin-Deficient Diabetes via Pancreatic β-Cell Proliferation(EBioMedicine 2016年12月7日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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