ニュース

2017年06月12日

「アディポネクチン」が糖尿病リスクを低下 インスリンの働きを強化

 血中の「アディポネクチン」濃度が高い人は糖尿病リスクが低いことが、日本人を対象とした大規模調査「JPHC研究」で明らかになった。
アディポネクチンはインスリンの働きを強くする
 「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

 研究チームは今回の研究で、1990年と1993年に、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎の9保健所に在住している、研究の開始時に糖尿病を発症してなかったが5年間に発症した417人と、発症しなかった1197人を対象に、「アディポネクチン」と2型糖尿病リスクとの関係を調べた。

 「アディポネクチン」は、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、糖尿病・高血圧・動脈硬化などを防ぐ作用があるとされている。「アディポネクチン」は、低分子量、中分子量、高分子量の3種類に分けられ、なかでも高分子量「アディポネクチン」がもっとも生理活性があり、血糖値を下げるインスリンの働きを強くする作用がある。

 「アディポネクチン」には食欲が抑える効果もあることや、ウォーキングなどの運動をすると「アディポネクチン」を増やせることが分かっている。

 過去の研究では、血中の「アディポネクチン」濃度が高いと2型糖尿病のリスクが低いことが示された。「アディポネクチン」には遺伝子の多型(人による遺伝子配列の違い)があり、それが「アディポネクチン」濃度の差に影響し、2型糖尿病リスクが変わると考えられているが、日本人ではその関係は十分に明らかにされていない。そこで、研究チームは、日本人を対象とした「多目的コホート」のデータを用いて調べた。
血中「アディポネクチン」濃度が高いと糖尿病リスクが低い
 研究チームは、血中の「アディポネクチン」濃度と2型糖尿病リスクの関係を調査。5年後調査時の保存血漿を用いて、総「アディポネクチン」濃度、高分子量「アディポネクチン」濃度を測定し、その後5年間の糖尿病リスクとの関連を調べた。

 「アディポネクチン」濃度を、濃度順に均等に4つのグループに分けて、糖尿病リスクを分析した。分析にあたっては、糖尿病に関連する他の要因(年齢、性別、居住地域、空腹時間、BMI、喫煙歴、飲酒歴、身体活動、降圧薬の服用)の影響を取り除き、統計学的に調整した。

 その結果、糖尿病に対するオッズ比(95%信頼区間)を計算したところ、総「アディポネクチン」濃度がもっとも低い群(中央値 3.1µg/mL)を基準にすると、2番目、3番目、4番目の群の糖尿病のオッズ比は、それぞれ0.48倍(0.34-0.68) 、0.36倍(0.24-0.53)、0.24倍(0.15-0.38)であり、総「アディポネクチン」濃度が高いほど糖尿病リスクが低下することが明らかになった。 

 こうして血中の「アディポネクチン」濃度が高いほど糖尿病リスクが低いことが、日本人を対象とした研究でも確かめられた。
アディポネクチンの作用を高める薬を使った試験が必要
 研究チームは次に、遺伝子の配列に違いがあると「アディポネクチン」濃度や糖尿病リスクが変わるかどうかを検討。「アディポネクチン」遺伝子の配列には多型があることが知られており、その中でも良く知られている多型は「rs2241766」(+45T>G)や「rs1501299」(+276G>T)がある。

 集団の中で、TT、TG、GGという3つのタイプに分かれ、過去の研究ではTTのタイプの人に比べ、TGもしくはGGのタイプの人の方が、糖尿病リスクが高いと報告されていたが、日本人を対象とした解析では、いずれの多型も高分子量「アディポネクチン」濃度と関連していないことが明らかになった。

 「アディポネクチン」濃度は糖尿病リスクの低下と関連していることは明らかだが、今回のような観察型の研究では、さまざまな要因(偶然、偏り、交絡)の影響をすっきりと排除することができないため、「アディポネクチン」の糖尿病予防効果を解明するには限界があるという。これを検証するためには、その作用を高める薬を投与する介入型の試験などが必要となる。

 また、今回の結果では、「アディポネクチン」遺伝子の「rs2241766」や「rs1501299」の配列の違いは、「アディポネクチン」濃度とも糖尿病リスクとも関連していないことが示されたが、「アディポネクチン」遺伝子配列の近くには他にも多数の多型があり、遺伝因子による効果を解明するために、より大規模な研究が必要になるという。

 研究成果は、医学誌「Diabetes Research and Clinical Practice」に発表された。

多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究グループ)
Plasma adiponectin levels, ADIPOQ variants, and incidence of type 2 diabetes: A nested case-control study(Diabetes Research and Clinical Practice 2017年5月24日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲