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2018年02月16日

「1型糖尿病の根絶」を目指して 日本IDDMネットワークが研究助成

 1型糖尿病の患者・家族を支援する認定特定非営利活動法人「日本IDDMネットワーク」(佐賀県佐賀市)は、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の三林浩二教授の研究に対し、研究助成金1,500万円を贈った。この研究助成金は、佐賀県によるNPO等指定ふるさと納税を財源としている。
新しい治療を多くの患者に届けることを目指して
 三林浩二教授の研究は、1型糖尿病の患者を「痛み」から少しでも解放するとともに、低血糖というリスクも減らすことを目指しており、患者・家族の苦痛、心理的負担を減らすことに大きく近づくものと期待されている。

 今回の助成の対象となった、三林浩二教授が代表者を務める研究のテーマは以下の通り――
  • 「体を傷つけない血糖値評価」を目指した、唾液糖の計測装置「マウスガード型バイオセンサ」の開発

  • 「小児発症での早期発見」および「1型糖尿病患者のQOL向上」を目指した呼気アセトンガス用バイオセンサの開発

  • 糖尿病治療のための人工膵臓を目指した自立式薬物放出システムの開発

 東京医科歯科大学では「1型糖尿病の人は大変な思いをして血糖コントロールを行っていらっしゃいます。今回の研究助成を通じて、三林教授の1型糖尿病研究が加速し、多くの患者さんに新しい治療法をお届けすることができる日が来ることを期待しています」と述べている。
患者の負担をなくし治療の改善を
 1型糖尿病の人は、体内でインスリンを分泌することができないため、1日数回の注射でインスリンを体外から補充するなどの治療を行っている。三林教授の研究室では、1型糖尿病の根治を目指して、さまざまなデバイス開発に取り組んでいる。

 現在、広く使われている血糖測定器は血液を用いるために、血糖値を測るために指先などを穿刺して採血をしている。この穿刺には痛みが伴う。

 三林教授らが開発を進めている「マウスガード型バイオセンサ」は、血糖値と相関する唾液中のグルコースを計測し血糖値を評価するというもの。唾液は血液に似た成分構造をもっており、これをもとに恒常的に血糖値を知ることができ、痛みも伴わない。

 バイオセンサは、患者のそれぞれの歯形を採って作製するので装着感が優れ、採血のようなストレスを感じることなく、かつ恒常的に血糖値を評価することができる。

 また、呼気に含まれるアセトンという成分から、小児期発症の1型糖尿病を簡便かつ早期に診断可能なデバイスの研究も進めている。インスリン分泌の低下により、高血糖の状態が続くと、呼気にアセトンが発生しやすくなる。アセトンは、体内で脂肪がエネルギー源として使われたときにできる物質だ。

 1型糖尿病は早期のインスリン療法導入が必須であるにも関わらず、小児期には発症からしばらく経って、やつれたり、昏睡状態に陥ってはじめて周囲が気づくという場合が少なくない。簡単に呼気のアセトンを検査できれば、学校での歯科検診などで1型糖尿病を発見し、早期治療につなげることができる。

 この技術を応用すれば、採血なしで、体の脂肪代謝の状態や糖尿病の進行度を調べることもできるという。
インスリンを分泌する「人工膵臓」を開発
 さらに、三林教授ら開発を進めているのは「治療するバイオセンサ」だ。現在のセンサは血糖値を測るだけで治療するわけではない。目指しているのは、血糖値をモニターして終わるものではなく、新たに血糖値をコントロールする機能を備えた「人工膵臓」の開発だ。

 血液中のグルコース濃度に応じてインスリン分泌を制御できれば、生体内で行われている血糖コントロールと同じ仕組みを人工的に再現できるようになる。開発を進めている「人工膵臓」は、血糖からエネルギーを得てインスリン分泌をコントロールする仕組みで、電源を必要としない。

 「血糖であるグルコースの化学エネルギーにて自ら薬剤を放出するセンサを目指して研究しています。電源を必要としないウェアラブルなデバイスの開発を目指しており、“自立的に持続可能な医療機器”というのが、私たちが考える医療デバイスの未来です」と、三林教授は言う。

 「こうした研究を続けていくためには、いろいろな研究機器や材料が必要となり、優秀な研究者の参加も不可欠です。皆さまからいただいた研究助成を大いに役立て、1型糖尿病研究に弾みをつけてまいりたいと思います」(三林教授)。
「1型糖尿病の根絶」を目指して
 「日本IDDMネットワーク」は、全国の1型糖尿病患者とその家族を支援する活動をしている認定特定非営利活動法人。その活動は、患者・家族への情報提供から災害対応などさまざまだが、究極のゴールとして「1型糖尿病の根絶」を掲げている。

 そのためにできることは、1型糖尿病の根絶(治療、予防、根治)に取り組む研究者を支援し、1日でも早くその研究が実用的な医療になることだという。その方策として2005年に「1型糖尿病研究基金」を設立した。

 「最近ではさまざまなクラウドファンディングを活用して、患者・家族はもとより、患者・家族以外の多くの方々にも共感いただき、たくさんの寄付金をいただけるようになりました。これまでに40件の研究課題に対して2億600万円の研究助成を実施してきました。我が国では患者・家族が中心になって自らの疾患の根絶のために研究助成を行っている例は極めて少なく、これからの日本における患者団体活動の先駆的な事例になればとも思っております」(日本IDDMネットワーク 井上龍夫理事長)。

子供たちを注射から解放する挑戦(いのち×ふるさとチョイス)
佐賀県のふるさと納税 課題解決に取り組むNPOを支援
 今回の三林教授への研究助成(1,500万円)は、佐賀県庁への日本IDDMネットワーク指定のふるさと納税を通じて寄せられた寄付を財源としている。

 ふるさと納税は、自治体を選んで寄付をすると、税金の控除が受けられたり、お礼の品がもらえたりする制度。使途を明確にした資金調達である「ガバメント クラウド ファンディング」(GCF)にふるさと納税を活用する動きが増えている。佐賀県の場合は、NPOと組んで課題解決に取り組み、それに賛同する人からふるさと納税を活用して寄付金を募るというものだ。

 贈呈式が2017年12月26日に東京医科歯科大学で挙行された。日本IDDMネットワークから井上龍夫理事長・中島惠理事・山北洋二事務局次長、東京医科歯科大学から吉澤靖之学長・宮原裕二生体材料工学研究所長・三林浩二生体材料工学研究所教授が列席し、井上理事長から吉澤学長に対して、研究助成目録が贈呈された。
認定特定非営利活動法人 日本IDDMネットワーク
国立大学法人 東京医科歯科大学
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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