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2018年09月27日

サッカーが糖尿病の運動療法に 骨を丈夫にできる最適な運動

 サッカーが糖尿病の運動療法として最適であるという研究が発表された。
 ふだん運動をしていない高齢の男女でも、サッカーをプレイすることで、身体能力が向上し、骨密度も改善し骨粗鬆症の予防にもつながるという。
2型糖尿病の人や予備群は骨粗鬆症になりやすい
 サッカーは欧州を中心に人気のあるスポーツで、ルールが単純なので参加しやすく、社会的な相互交流の要素も含んでいる。

 一方で、骨の量が減って骨がもろくなり、わずかな衝撃でも簡単に骨折してしまうのが骨粗鬆症だ。2型糖尿病の人や糖尿病予備群は、骨粗鬆症のリスクが高い。

 とくに高齢者は骨密度が低下しやすく、骨折リスクを低下させるのは容易ではない。

 しかし、「サッカーには、運動や心臓の能力を向上させる効果に加えて、骨を丈夫する効果がある。転倒や骨折のリスクを抑えられる」という研究を、デンマークの南デンマーク大学とフェロー諸島大学の共同研究チームが発表した。

 プロスポーツとしてのサッカーは常に走り続ける激しいスポーツという印象があるが、アマチュア選手のサッカーでは、通常の歩行をする時間も多く、適度なインターバル運動になるという。

 運動で負荷をかけると骨が強くなり、骨密度が増加する。骨を守るために効果的なのは、衝撃や負荷の大きい運動だ。サッカーは骨に適度に刺激を与える運動になる。

関連情報
サッカーは2型糖尿病の運動療法に適している
 サッカーにはダッシュや急停止、ターン、ドリブル、パス、シュートなど多様な運動の要素が含まれる。

 「サッカーは激しいスポーツであるというイメージがありますが、工夫することで適度なインターバル運動になります」と、南デンマーク大学スポーツ・健康科学部のピーター クラストラップ教授は言う。

 「サッカーは、適度な強度や耐久性を向上できる多目的スポーツで、2型糖尿病の運動療法としても適しています」と強調している。

 また、運動を続ける上で障害になるのは、運動を安全に行うことに加えて、運動を続けられるよう動機付けを与えることだという。

 サッカーは欧州で老若男女に人気のあるスポーツで、馴染みが深く、また今回の研究では運動経験のない人に限定したため、体力差が少なく、参加者は均質にスポーツに参加することができたという。

 「研究の参加者の多くは、サッカーを続けることで満足度が高まることが示されました。運動をすること自体が動機になるのは強みです。楽しく運動をできる環境であれば、運動は長続きします」と、クラストラップ教授は言う。
16週間のサッカーで骨が丈夫に
 研究には、男性25人、女性25人の計50人が参加。参加者は55〜70歳で運動経験がなく体力が低下しており、糖尿病予備群と判定され、肥満もみられた。4分の3が骨が弱く、骨粗鬆症の予備群と判定された。

 通常であれば運動を始める際に注意が必要となるが、指導者によるアドバイスを受けながら、16週間のサッカー運動を続けた結果、すべてのパラメータが改善した。

 サッカー運動に参加した患者たちは、念入りにウォームアップを行った後で、ペアを組んで、狭いピッチでシュート練習、パス練習などの反復運動を行った。走ることを求めず、無理のない運動を続けるようアドバイスした。

 異なる波長の放射線を用いて対象をスキャンし骨密度を測定するDXA法で骨の状態を調べたところ、研究の開始前に、参加者の73%が大腿骨減少症と判定され、24%が大腿骨の骨粗鬆症と判定された。

 参加者は食事療法のガイダンスを受けながら、1回30〜60分間のサッカーのトレーニングを週に2回行った。試験は16週間行われ、サッカーのトレーニングの時間は30分から始められ、セッションが進むにつけ時間を延ばし、後半の10週間には60分間に延長された。

 16週間のサッカーのトレーニングの後は、骨ミネラル含量が大腿骨頸部で3.2%、大腿骨軸で2.5%、それぞれ向上し、骨ミネラル含量は32g増えた。血中の「オステオカルシン」は23%増えていた。

 オステオカルシンは骨が分泌する代表的な「エクソソーム(メッセージ物質)」。骨芽細胞で作られ、骨形成などと密接な関係がある。オステオカルシンがインスリンの分泌を促し、細胞のインスリン感受性を高めるという報告もある。
サッカーは体力の低下した高齢者にも勧められる
 2型糖尿病や骨粗鬆症のリスクの高い60〜70歳の高齢者が、サッカーで運動をするというアイデアは新しい。

 サッカーには、体力の低下した70歳以上の高齢者や、身体能力の低下した人、骨が弱くなっている人には向いていないというイメージがあるが、今回の研究はそれを覆すものだ。

 「実際にはコンディションの整った屋内の運動場で行うと、サッカーには優れたトレーニング効果があることが分かりました」と、スウェーデンのヨーテボリ大学栄養・運動科学部のマーニ モール氏は言う。

 「今回の研究は、参加者の離脱率がとても低かったのが特徴で、参加者は互いに良好な関係を築いて、集団で楽しみながらサッカーによるフィットネスを続けていました」。

 「サッカーに始めるのに、歳をとりすぎている、ということはありません。ただし、過度の運動はかえって身体的な障害を高めるおそれがあるので、無理をしないことが大切です。会話ができるくらいのペースで、社会的な交流を高めながらサッカーを行うと効果的です」と、モール氏はアドバイスしている。

 サッカーにより心肺機能と筋力が向上すると、階段を登る、買い物をする、自転車に乗る、ガーデニングなどの日常的な身体活動も容易にできるようになる。こうした身体能力の向上が生活の質を改善していく。生活の質を改善することで、要介護のリスクが低下すると考えられている。

 研究の詳細は、医学誌「Scandinavian Journal of Medicine」と「Science in Sports」に発表された。

55- to 70-year-old women and men with prediabetes get stronger bones with football training(南デンマーク大学健康科学学部 2018年7月27日)
Osteogenic impact of football training in 55- to 70-year-old women and men with prediabetes(Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2018年7月26日)
Football is Medicine(Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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