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糖尿病患者さんに、なぜ運動が必要か(前半)
 交通手段や電化製品の発達により、私たちの生活は大きく変化し、ますます豊かで便利なものとなっています。一方で、その便利な生活環境は、体を動かす必要性を減らし、運動不足に陥りやすい生活環境を作り出しています。この運動不足に、食事の欧風化(動物性高タンパク・高脂肪食)が加わり、糖尿病の患者数が急増する原因のひとつとなっています。そこで、本連載の第1回では「なぜ、運動不足が良くないか」、「糖尿病患者さんにおける運動の効果」について触れていきます。

■なぜ、運動不足が良くないのか
 運動により、体を動かすことで大量のエネルギーを筋肉で消費します。特に食後に行う運動は、糖尿病患者さん(以下、患者さん)の食後血糖の過度な上昇を抑えるように働き、血糖コントロールの改善が期待できるほか、糖尿病の原因ともなる肥満の防止とその改善にも効果があることが広く知られています。
 更に、最大酸素摂取量※に影響を及ぼさないような軽度の身体トレーニングであっても、それを長期にわたり継続すると、インスリン感受性が改善し、細胞へのブドウ糖の取り込みが促進されることで血糖を改善する効果を得られることが知られています。
 最近では、運動とブドウ糖の代謝について、インクレチンとの関連でも研究がすすめられていますし、患者さんのストレス発散や気分転換にも有益であることは周知のことであります。
 運動不足とは、運動が患者さんにもたらすこのように有益な効果を失うことであり、このことを患者さんによく説明し、食事療法とともに十分指導することが求められます。
糖尿病治療の基本は運動と食事
糖尿病治療の基本は運動と食事
※最大酸素摂取量:
有酸素運動能力(体力、全身持久力)の指標。その人が行う最も強い運動時における酸素摂取量をさす。運動負荷試験を行い、疲労困憊条件で呼気ガスを測定して算出していたが、最近では心拍数からの推定値も用いられている。

■有酸素運動の能力と2型糖尿病の発生率
 運動不足と糖尿病の発生率の関連について、7年間にわたる定期健診受診者の有酸素運動能力の変化と糖尿病発症率の関係を調べた研究があります。
 有酸素運動能力の変化を低下、やや低下、やや増加、増加の4段階に分けて糖尿病発症率をみると、それぞれ1.0、0.64、0.40、0.33という結果になり、有酸素運動能力の低下が大きいほど糖尿病の発症率が高く、この面からも運動不足と糖尿病発症には強い因果関係があると言えます。
有酸素運動能力の変化と2型糖尿病の関係
(東京ガス研究: 2003,2010)
有酸素運動能力の変化と2型糖尿病の関係
Sawada SS, et al:Long-term trends in cardiorespiratory fitness and the incidence of type2 diabetes.Diabetes Care 2011;33:1353-1357.より引用改変

■糖の産生と筋肉によるエネルギー消費のメカニズム
 通常、安静時の骨格筋(以下、筋肉)では、脂肪組織から放出される遊離脂肪酸が主なエネルギー源ですが、運動時にはブドウ糖が利用されます。運動開始後の初期には、筋肉中のグリコーゲンが分解され、続いて血中のブドウ糖、遊離脂肪酸が主なエネルギー源となります。しかしながら、血中のブドウ糖はわずかしか存在しないため、不足分は肝臓でグリコーゲンが分解されて生み出されるブドウ糖が利用されます。また、脂肪分解により生じた遊離脂肪酸も筋肉に供給されます。
安静時
安静(空腹)時のエネルギー源
運動時
運動時のエネルギー源

 このように、運動時の筋肉へのエネルギー供給には肝臓による糖の新生が関与し、患者さんの運動による急性代謝効果や血糖値の変動には、この肝臓の役割と患者さんのインスリンの供給状態の双方が大きくかかわっています。

 ①インスリンの供給が十分な場合、血中のブドウ糖は筋肉で消費され血糖値を下げる方向に働きます。しかしながら、②インスリンの供給が十分でない場合、筋肉による糖の消費が進まず血中のブドウ糖が活用されない一方、肝臓から産生されるブドウ糖が加わり血糖値が上昇します。また、③肥満2型糖尿病やインスリン治療中などの患者さんのように、血中にインスリンが過剰に見られる場合は、肝臓からの糖の産生が抑制され、筋肉のブドウ糖の消費が上回る結果、血糖値は低下し、時には低血糖になる場合もあります。

運動時のインスリンと血糖の変化
運動時のインスリンと血糖の変化

 これらのことから、糖尿病患者さんの運動療法の効果を考える場合、個々の患者さんのインスリン分泌状態や治療内容を把握するとともに、インスリン抵抗性の程度などを確認し、適切な指導を行うことが求められます。

2012年05月 

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