糖尿病とお口の健康
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糖尿病3分間ラーニング

2. 糖尿病で歯周病が増える理由、
歯周病で血糖値が上がる理由

石川 烈 先生
2004年02月
 「糖尿病とお口の健康」の第1回目では主に、歯周病の基礎的なことをお話ししました。今回は、歯周病と糖尿病の相互の関係に焦点をあててみます。

糖尿病と歯周病の相関関係

 糖尿病の人が歯周病になりやすいことは、以前からよくいわれていたことですが、両者の相関関係を明確な数字とともに示すのは、なかなか大変な面がありました。ひと口に糖尿病といっても病状に大きな幅があること(糖尿病のタイプや血糖コントロールの良し悪しなど)や、歯周病自体が罹患率が高い病気であるために、病気の進行レベルまで含めて詳しく調べないと、差を比較しにくいといった理由からです。

 しかし、これまでに行われてきた調査研究から、以下のようなことがわかっています。

(1) 糖尿病の人は歯周病の罹患率が高い

 調査によってやや差はありますが、糖尿病でない人に比べて2倍強の頻度で歯周病が起きやすくなるとの報告がみられます。

(2) 糖尿病の人は歯周病がより重症化しやすい

 糖尿病の人では歯周病の罹患範囲(歯周病の歯の本数)や、歯周ポケット(歯と歯ぐきの間にできるすき間)の大きさなど、歯周病の重症度を示す値が、糖尿病でない人より高いことがわかっています。

(3) 糖尿病の罹病期間が長い人ほど、歯周病の罹患率が高い

 糖尿病では罹病期間が長くなるほど、いろいろな合併症が起きやすくなりますが、歯周病も同じ傾向がみられます。ただしこれは、加齢の影響も少なくないと考えられます(糖尿病の罹病期間が長いということは、それだけ高齢であると考えられ、歯周病の罹患率も自然に高くなる)。

(4) 血糖コントロールがよくない人は歯周病がより重症化しやすい

 血糖コントロールがよくない人ほど、合併症の進行が早くなりますが、歯周病も同じ傾向がみられます。

(5) 歯周病が重症化している人ほど血糖コントロールがよくない

 進行した歯周病がある人ほど、血糖コントロールが悪化しやすく、合併症の発病率が高いという報告もあります。

(6) 歯周病の人は糖尿病の罹患率が高い

 歯周病の人は歯周病でない人よりも、糖尿病の罹患率が約2倍高いとの報告があります。

(7) 歯周病の人は糖尿病でないとしても糖尿病予備軍であることが多い

 (6) と同じ調査から、歯周病がある人は、たとえ糖尿病と診断されるほどの高血糖ではないとしても、HbA1C(過去1〜2カ月間の血糖値の平均を表す検査値)が高い人が多いことが示されました。つまり、「糖尿病予備軍」の頻度が高いということです。

(8) 糖尿病の人が歯周病をしっかり治療するとHbA1Cが改善する

 慢性感染症である歯周病に対して徹底的な治療を行うと、血糖コントロールが改善することがわかってきました。それとは逆に、血糖コントロールが悪いと歯周病の治療だけ進めても、歯周病がなかなかよくならないと、従来からよくいわれています。

糖尿病と歯周病の因果関係

 このように糖尿病と歯周病に密接な相関関係があることは、ほぼ間違いありません。ただ、両者の因果関係については、すべてが明らかになったわけではありません。

 例えば、糖尿病に歯周病が併発しやすいのは、血糖値が高いためなのか、それとも両者の発病に共通する生活習慣や遺伝的な背景が存在するのか、あるいはもっと別の理由からなのか、確実なところはわかっていません。今はまだ理論の段階で、その裏付けを得るために、両者の因果関係を確かめる調査研究が現在行われているところです。

歯周病の危険因子

 ここで、なぜ歯周病になるのか―歯周病の原因―について簡単に触れておきましょう。

 ある病気にかかりやすくする要因のことを、その病気の危険因子(リスクファクター)といいます。歯周病には、大きく分けて三つの危険因子があります。

(1) 細菌因子(歯周病の原因のおおもと)

 歯周病は慢性感染症です。感染を引き起こしているのは、歯と歯や歯ぐきの間に住み着く細菌です。その細菌の塊を「プラーク」といいますが、プラークに接している歯肉は様々な刺激を受けて炎症が起こり、歯周組織を徐々に蝕んでいきます。

 歯周病の起こりやすさは、プラークに住み着いている細菌の量と種類に大きく左右されます。最近では、歯周病を特に起こしやすくする細菌の種類が特定されつつあります。

(2) 宿主因子(歯周病を起こりやすくする体の状態)

 ヒトの体には、外部から体内に侵入を試みる細菌やウイルスに対し、それをシャットアウトする精巧なシステム「感染防御機構」が備わっています。ですから細菌が住み着いたとしても、すぐに歯周病になるわけではありません。しかし、細菌に対する体の抵抗力が弱くなっていたり、口の中が細菌の活動を手助けするような状態になっていたり、歯周組織が破壊されやすい状態にあると、わずかな細菌の攻撃を防ぎ切れず、歯周病が発病・進行してしまいます。

 このような、個々の患者さんが持っている歯周病の危険因子を、宿主因子(または生体因子)といいます。具体的には、加齢、糖尿病、骨粗鬆症、腎臓の病気、肥満などの全身の病気や状態、遺伝的なこと、噛み合わせや歯並びがよくないことなどがあげられます。

(3) 環境因子(歯周病を起こしやすくする生活習慣)

 歯周病は生活習慣病です。生活習慣病とは、ある程度の遺伝的な素因を背景に、生活習慣の影響が加わって発病する病気のことです。

 歯周病を起こしやすくする生活習慣として、喫煙や精神的なストレス、飲酒などがあります。また、糖分の多い食べ物や、やわらかい食べ物を好んで食べたり、間食回数が多いといった食習慣は、プラークをできやすくして歯周病の原因となると考えられています。

 これら三つの危険因子はそれぞれが個別に歯周病を進行させますが、三つが絡み合い、互いの影響を強めるように作用することがあります。わかりやすい例をあげると「甘い食べ物を好むという環境因子が細菌因子を強めたり、宿主因子のひとつである肥満を招く」と、といった具合です。

糖尿病で歯周病が増える理由

 以上の三つの歯周病危険因子を頭の隅に置きながら、糖尿病と歯周病の相関関係を考えてみましょう。

糖尿病は血糖値が高くなる病気

 糖尿病は、血糖値が高くなる(高血糖になる)病気です。高血糖は口の中の環境に次のような影響を及ぼします。

口の中が乾燥する

 高血糖状態では、浸透圧の関係で尿がたくさん出ます。その結果、体内の水分が減少するとともに唾液の分泌量が減り、口渇(喉や口の渇き)という症状が現れます。唾液には食べ物を消化する働きの他に、口の中を浄化したり組織を修復する働きもあり、歯周病を防ぐように作用しています。高血糖のために口の中が乾燥している時は、その作用が低下していて、歯周病の原因菌が繁殖しやすく、歯周病が進行しやすい環境になっていると考えられます。
   → (1) 細菌因子と (2) 宿主因子への影響

動物が(ヒトも含めて)怪我をした時に傷口をなめるのは、唾液による殺菌・組織修復作用を利用しているものと、推測されています。

唾液などの糖分濃度が高くなる

 口の中は唾液や歯肉からの滲出液で常に潤っています。これらの液体は、もともとは血液から作られるものです。ですから高血糖下では、唾液や滲出液の糖分の濃度が高くなります。そのような状態は、歯周病の原因菌が繁殖に適していると考えられます。
   → (1) 細菌因子への影響

細菌に対する抵抗力が低下する

 高血糖状態では、細菌を貪食する好中球(白血球の中で最も数が多い顆粒球)の働きが低下することがわかっています。つまり、感染防御機構が十分に機能しなくなるということです。そのために様々な感染症にかかりやすくなり、感染症である歯周病も当然、起こりやすくなります。
   → (2) 宿主因子への影響

組織の修復力が低下する

 プラークが形成された歯周組織では、細菌によって引き起こされる組織の破壊と、それを何とか修復しようとする働きのせめぎあいが続いています。高血糖(または低血糖)状態では、組織を修復する働きが低下することがわかっていて、糖尿病で歯周病の進行が早くなることには、このことが影響していると考えられます。
   → (2) 宿主因子への影響

たんぱく質の代謝が変化する

 糖尿病は糖の代謝(栄養素などが体内で利用され、排泄されるまでの流れ)に異常が起きる病気ですが、たんぱく質の代謝も変化します。その影響は、歯周組織内のコラーゲンの減少や性質の変化となって現れ、歯周組織の弾力性が失われ、破壊された組織の修復力も弱くなります。

 さらに高血糖状態では、過剰なブドウ糖がたんぱく質と結び付いて AGE―advanced glycated endproduct.最終糖化産物。糖尿病合併症の主要原因のひとつと考えられています―という物質が作られます。歯肉組織に AGE が蓄積すると、そこに炎症を起こしたり、組織を傷つけ、歯周病の発病・進行を招きます。
   → (2) 宿主因子への影響

脂質の代謝が変化する

 糖尿病では、脂質の代謝も変化します。そのために高脂血症―特に、中性脂肪(トリグリセリド)や LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の増加―をしばしば併発します。最近の研究の中には、高脂血症が歯周病の危険因子である可能性を示すものもあり、両者を併発した場合の悪影響は無視できません。
   → (2) 宿主因子への影響

肥満の影響

 肥満とは、余分なエネルギーが脂肪となって、体に蓄積した状態のことです。従来、体の脂肪は単にエネルギーを貯蔵するだけの存在だと考えられていたのですが、近年、脂肪細胞では様々な作用をもった物質が作られていることがわかってきました。それらのうちのいくつかは、組織に炎症を起こすように作用します。

 歯周病は細菌感染によって歯周組織に慢性の炎症が起きる病気です。肥満のために脂肪組織から分泌され続ける炎症物質は、歯周組織にも影響を与えて歯周病の危険を高めることがわかっています。

 2型糖尿病の患者さんの7割前後は、現在肥満の状態であるか、過去に肥満であった時期があるといわれていますから、このこともまた「糖尿病の人に歯周病が多い」という事実に結び付いてくると考えられます。
   → (2) 宿主因子への影響

合併症の影響

 糖尿病の罹病期間が長くなると、全身の血管に障害が起き、それが様々な合併症の主原因となります。特に、血管径の小さい細小血管にその影響が現れやすく、末梢組織の―歯周も末梢にあたります―血流量低下から感染を長引かせたり、組織の修復を妨げたりします。

 また、糖尿病の合併症で、骨量が減少すること(骨粗鬆症)があります。歯周組織の炎症が続き歯槽骨(歯の土台の骨)が減少する病気である歯周病に、その影響が及ぶ可能性は、十分考えられます。
   → (2) 宿主因子への影響

糖尿病は生活習慣病、歯周病も生活習慣病

 糖尿病と歯周病は生活習慣病です。糖尿病を起こしやすくする生活習慣とは、運動不足、食べ過ぎや飲み過ぎ(特に、糖分のとり過ぎ)、精神的なストレスなどがあげられます。このうち糖分の多い食事や精神的ストレスは、歯周病を起こしやすくする生活習慣でもあります。

 加えて、糖尿病の合併症を起こしやすくする生活習慣として、喫煙があげられますが、喫煙は歯周病の明らかなリスクファクターです。
   → (3) 環境因子への影響

歯周病で血糖値が上がる理由

 引き続き、歯周病が血糖値に与える影響について考えてみます。

細菌感染症によってインスリン抵抗性が生じる

 何度か述べましたが、歯周病は感染症です。感染症というと、通常、かぜやインフルエンザ、肺炎などのような、原因の細菌やウイルスが駆逐されるまでの一時的な病気、治療を受ければ完治する病気だと思われるかもしれません。

 しかし、歯周病がこれらの感染症と違うのは、慢性感染症だということです。治療を継続していないと、歯周組織に住んでいる細菌の活動を封じ込めることができません。ときには、歯肉の毛細血管から血液中に細菌が入り込み、菌血症を起こすこともあります。

 このような時、ヒトの体は様々なサイトカインを分泌して、細菌やウイルスに対抗しようとします。それらのサイトカインは、インスリン(血糖値を下げる唯一のホルモン)の働きを阻害して「インスリン抵抗性」という状態を生じさせます。当然、血糖値はいつもより上昇してきます。健康な人ならすぐに膵臓からインスリンが分泌されて血糖値が高くなり過ぎることはありませんが、糖尿病の人では血糖コントロールが乱れる大きな原因となります。

 慢性感染症である歯周病を放置すると、体は常にインスリン抵抗性の状態になっていると考えられます。

歯周病は生活習慣病、糖尿病も生活習慣病

 歯周病と糖尿病は生活習慣病です。歯周病を起こしやすくする生活習慣とは、歯磨きがきちんとできていないことや喫煙、あるいは糖分の多いものを好んで食べたり間食をとり過ぎるなどの食習慣、口呼吸(鼻で息をせず、口で呼吸すること)、歯ぎしりの癖、精神的ストレスなどがあげられます。このうち、食習慣や精神的ストレスは糖尿病を起こしやすくする生活習慣でもあり、喫煙は糖尿病の合併症を起こしやすくする生活習慣です。

歯周病で歯を失うと…

 歯周病が進行して、歯がぐらついたり歯を失うと、固いものが食べられず、普段の食事がやわらかい食べ物中心になったり、よく噛まずに飲み込んでしまうようになります。やわらかい食べ物はプラークを蓄積しやすく、歯周病により悪影響を及ぼします。さらに、このような食事のとり方は、食後に血糖値が急激に上昇する「食後高血糖」を起こしやすくすると考えられます。

糖尿病治療と歯周病治療の相関関係

糖尿病と歯周病の治療の“輪”

 以上のように、糖尿病と歯周病は相互に悪影響を及ぼし合います。しかし、だからといって、「糖尿病のうえに歯周病の心配までしなければいけないなんて…」と、がっかりする必要はありません。糖尿病が歯周病に及ぼす悪影響の多くは、血糖値が高いこと、血糖コントロールが悪いことを介するものです。つまり、糖尿病があってもしっかりと血糖コントロールをしていれば、歯周病の起こりやすさは、糖尿病でない人とあまり差はないと考えられます。

 さらに近年では、「糖尿病患者の歯周病を徹底的に治療することで、血糖コントロールが改善された」という報告がよく見られるようになってきました。糖尿病と歯周病を同時にきちんと治療していけば、必ず双方に良い影響を与え合うことは間違いありません。

 今回は、糖尿病と歯周病の相関関係を整理し、その背景として考えられる原因を探ってみました。次回はいったん糖尿病から離れて「歯周病とはどういう病気なのか?」と「歯周病の治療法」について、詳しく解説する予定です。

もくじ

  1. 気になりませんか?
    口臭、歯ぐきの出血・腫れ、歯に物が挟まりやすい・・・
  2. 糖尿病で歯周病が増える理由、
    歯周病で血糖値が上がる理由
  3. 徹底研究! 歯周病の原因と治療
  4. 歯周病は全身に悪影響を及ぼす
  5. 糖尿病の合併症と歯周病の合併症 その相互関係を探る
  6. 今からでも間に合う、お口のトラブル予防法・解消法

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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