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糖尿病3分間ラーニング
ベトナムの糖尿病事情

10. ベトナムの糖尿病、この1年を振り返る


レポーター:Dang Thi Kim Anh さん
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表

レポーター:Nguyan Lam Hong さん
2006年にハノイ医科大学卒業。研修医。
GHPトレーディング社のメンバー
2008年07月

1. 経済の情勢

 我々がこの糖尿病レポートをはじめからほぼ1年の間に、ベトナムの社会・経済情勢には大きな変動が生じています。

 2006年11月にベトナムは世界貿易機関(WTO)の正式メンバーになり、ベトナム経済は世界市場により開放され急速な成長をみせていましたが、2007年後半の世界的な経済混乱によってベトナム経済も大きな影響を受け、2桁台のインフレに見舞われました。今はベトナム経済にとってとても難しい時期で、いままでにないインフレと貿易不均衡が続いています。株式市場と不動産市場はすべて下落し、金融市場は安定を欠き、生産と人々の生活は深刻な困難に直面しています(vietnamnetによる)。

2. 国家予算の動向

ベトナムではどこでもバイクが活躍しています

 この長引くインフレは経済目標に負の影響をもたらす懸念があります。まず、ヘルスケアへの国家予算からみてみましょう。2008年は2兆4423億ドン(国家予算の6.1%、日本円換算152.7億円)がヘルスケア関連予算として配分されると予想されています。2002年の予算では6336億ドン(国家予算の4.4%、日本円換算39.6億円)、2007年は2兆710億ドン(国家予算の5.6%、日本円換算129.5億円)でした(Vietnamnetによる)。

 社会問題委員会の委員長であるTruong Thi Mai氏によると、厚生省は2010年には国家予算の10%を獲得することを目標にしています。これはベトナムのヘルスケア領域にとってとても重要なことです。この目標に目下の経済変動が障害とならないことが望みます。

3. 糖尿病に関する情報源の増加

4. ヘルスケア製品の開発と多様化

 この1年、多くの新しい糖尿病医薬品だけでなく、栄養滋養食品、機能性食品やハーブティーなど糖尿病患者に良いとされるものが、日本、タイ、中国などから輸入販売されるようになりました。

5. 新しい組織(団体)の誕生とその成果

 2007年の5月から6月にかけて、糖尿病内分泌疾患予防戦略研究所(Institute for diabetes and endocrine disorder prevention strategy)、ベトナム糖尿病教育協会(VADE:Vietnam Association of Diabetes Educators)がともに第1回ワークショップを開催しました。

病院で行われた糖尿病のワークショップ

 同研究所は現在組織づくりの段階であり、糖尿病内分泌領域で仕事に従事する人々の訓練に活動の焦点を当てています。これらの活動のすべては同研究所と国立内分泌病院(National Hospital of endocrinology)が連携して行なっていますが、詳細なレポートはまだ公表されていません。

 一方、VADEは2008年3月から数回の糖尿病のグループカウンセリングセミナーを行っています。また、糖尿病クラブの設立を応援しています。そして、ハノイとホーチミン市で糖尿病クラブが結成され、ホーチミンでは糖尿病患者クラブへのホーチミン市の栄養補給が改善されるという速やかな初期的成果を上げることができました。

 国立内分泌病院、糖尿病内分泌疾患予防戦略研究所のディレクターであるDr. Ta Van Binh教授の秘書によると、国の糖尿病調査が現在行われており2008年末終了するそうです。6年前(2002年)に行われたいわゆるベトナム初の本格的糖尿病調査以来といえるこの調査から、ベトナムの糖尿病に関する多くの重要データがもたらされるでしょう。

6. 患者や社会の糖尿病に対する認識

 この1年、糖尿病の情報普及と様々な組織(団体)による糖尿病に関する教育・啓蒙活動がきわめてアクティブに行われました。そして、社会全体での糖尿病への認識は高まり、特に糖尿病患者さんにより強くアッピールされました。

 しかし一般的には糖尿病の理解はまだ十分とはいえません。ひとつの例として、今では笑い話ですが、“糖尿病”と“路上でオシッコする”の区別がつかず、しばしば混乱や誤解が生じることがありました。これはたまたま、ベトナム語の“砂糖”と“道路”は、日本で言う”箸”と”橋”のように同じ発音で表すためです。それくらい糖尿病の知名度が低かったのです。そしてだいぶ改善されたものの、患者さんやよく教育を受けている非患者の方と、それ以外の方では、糖尿病治療に対する理解と姿勢に未だに大きなギャップがあり、こんなことからも認識の食い違いがおこり、意思疎通がうまくいかないこともあるのです。

 私たちは彼らが糖尿病について多くの人に共通する点と大きく異なる点を明らかにするために患者さんや健康な人たちとスモールトーキングを行いました。

 その中から2つの例を示します。

 最初のケースは、インスリン治療をしている2型糖尿病患者の方です。既に引退している男性で、以前のインタビューをさせていただいた方です。インタビューの数カ月後に行いました。この方は、VADEのトレーニングセミナーを受けた後、クラブ推進委員会の設立を討議する会合に出席され、その会の議長に就任することになったそうです。

 「私の健康状態が改善され、健康の自己管理のためにより多くの情報や技術が得られるトレーニングセッションへの出席してみたいと思いました。そして、新聞やテレビ番組にもいくつかに案内を見つけました。そしてそれらのトレーニングセッションは私のような患者にとても興味深いもので、実行することも簡単にできそうでした。そこで、そのドクターに会い直接指導を受けてみました」

 「私が知る限りでは、ますます多くの人が糖尿病になり、そのほとんどの人が私のように糖尿病の知識がないということが問題です」

 「この頃は、糖尿病について調べ、しばしば命を脅かす恐ろしい合併症について読むこともできます。私の血糖値を良好に保つために日々の生活習慣を見直し変更するという非常に難しい挑戦をしています」

と話して下さいました。

 2番目の例は、自営業の45歳の男性の方です。

「私はこの種の病気ついて何も知らず、この1年というものいつも疲れていて、たくさん水を飲み、尿が非常に多くなりました。働くとひどく疲れました。家計の状態はあまりよくなく、この病気について何も知らなかったので、長い間まったく医者に診てもらうことがありませんでした。そして、医者に行ったら糖尿病ですといわれました」

 「医者に指示された治療法はまだ達成できていません。食事療法により注意を払うことができず、身体エクササイズもできませんでした。毎日働かなければなりません。仕事を終えて寝床に行きたいと思うときに身体エクササイズのサウンドはむしろイライラの元です」

 「この病気は私の残りの人生の最後まで付き合うものでしょう、ですからとても心配です。これからの長い期間、医療費がカバーできるかどうかも心配しています」

 このように、糖尿病が大変な病気であるという体験や認識は共通認識に向かうものの、実際の治療に関わる事情や姿勢はひとりひとり異なっていることが強く印象に残りました。

7. 患者を支援するリソースと戦略

 一般的に、患者をサポートするリソースは、以前の我々のレポートでも言及したように、ベトナムではまだ依然として量と質ともに非常に限られています。

 国内外のNGOの活動は、ビジネスとしては持続不可能であるような状態のなかでもとても実効的な活動を行えるのですが、まだそのようなグループを結集させる力が見られていません。

 しかしともかく、糖尿病内分泌疾患予防戦略研究所のような確実な成果が見込まれる中核組織(団体)には企業の事業部門の寄付が見られるようになりました。また、計画的な活動を展開しているVADEでも、たとえば2008年3月のカウンセリングセミナーはgalaxosmithkline社が後援しました。そして、このプログラムは患者さんによい印象を残し、活発な活動をする組織(団体)として多くの患者さんから期待が寄せられています。

8. まとめ

 我々はこの1年あまり、ベトナムでの糖尿病との様々な戦いの現場に足を運び、つぶさに見てきました。ベトナムの糖尿病に関する情勢は、

  • 糖尿病の患者数が日々増加する
  • ほとんど人は自分が背負い込んだ健康上のリスクについて何も知らない。また、自分の体のなかでどこかが壊れるまで気づかない
  • 子供達の肥満や糖尿病にはより重大な危険がある

など、解き明かし解決しなければならない問題が山積しています。

子供達はインターネットが大好きです

 肥満や糖尿病に直面する子供達の数は、統計的に把握できている状態ではありませんが、国中で日々このような子供達が増えています。このことは経済が急成長したことにも関係しています。

 また、この病気によって多くの人々が経済困難に陥るのをみることになりました。多くの人が治療費をカバーするためにはあまりにも少ない収入であり、費用の高い治療は中断してしまいがちです。

 糖尿病専門病院ではドクターは1日8時間で100人以上の患者さんを診ています、その一方病院のそこここに疲れ切って希望を見いだせないような風情で診察を待つ患者さんをたくさん見受けました。

 しかしともかく、ベトナムの糖尿病との戦いの現場で、中核的な組織(団体)が立ち上がっていくのを目の当たりにできたことは我々の大きな喜びでした。

 これらの組織(団体)は、より効果的かつ持続的に活動を広げていく“オーケストラの指揮者”のような役割を演じてくれるでしょう。これらの組織が達成したいくつかの初期的成功がこのことを裏付けてくれます。

外来診療を待つ患者さんたち

 まず、ベトナム政府が、国民が糖尿病に至らしめるような生活習慣を自覚し、より多くの人々がどうすれば糖尿病を回避でき、よりよい生活習慣を持てるかという意識向上に努力を傾けたことに感謝しなければなりません。この1年間に行われた活動は成果を挙げるうえでとても有効だったと思います。

 近い将来、ベトナムの糖尿病患者さんは、どのように自分の健康を自己管理すれば、糖尿病やその他の生活習慣病から身を守れるかということについて、十分な情報にアクセスできるようになるでしょう。糖尿病との戦いにおいて国際的な協力関係に参加できるベトナム社会が立ち上がることを熱望しています。このレポートを書いた我々も大いに頑張りたいと思います。

 この連載を通じていろいろな糖尿病に関する情報や理解に触れることができたのは素晴らしい体験でした。またの機会にこの続きをお届けしたいと思います。

 この連載に関心を寄せていただいたことに感謝します。

(2008年7月、Dang Thi Kim Anh、Nguyan Lam Hong)

「ベトナムの糖尿病事情」もくじ


ベトナムの糖尿病事情を10回シリーズでお届けいたします。


コーディネーター: Dang Thi Kim Anhさん(写真中央)。
GHPトレーディング社(ベトナム)の代表。スタッフに囲まれて。

  1. ベトナムの糖尿病をめぐる現状
  2. 飲食習慣が劇的に変化した20年 糖尿病も増加
  3. 糖尿病専門医に聞いたベトナムの
    糖尿病をめぐる現状と対策
  4. ベトナムの1型糖尿病患者さん
  5. ベトナムで増加する肥満・糖尿病
  6. ダナン病院の2型糖尿病の患者さん
  7. ベトナムのヘルスケアシステムと糖尿病
  8. 糖尿病患者さんをサポートする体制
  9. インスリンを使用する2型糖尿病の患者さん
  10. ベトナムの糖尿病、この1年を振り返る

国際糖尿病支援基金「わが友、糖尿病」

世界各国の糖尿病療養に携わる医療スタッフや患者さんとの交流録。
世界のさまざまな場所を旅した国際糖尿病支援基金・森田繰織会長のブログです。

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