ニュース

2017年06月12日

日本の糖尿病足潰瘍の発症率は欧米の10分の1 日本初の大規模調査

第60回日本糖尿病学会年次学術集レポート
 糖尿病足潰瘍の年間発症率は0.3%で、欧米の10分の1程度であることが、日本ではじめて実施された前向き大規模調査で判明した。
糖尿病足潰瘍の年間発症率は0.3%、切断率は0.05%
 福岡県内の糖尿病専門の医療機関に通院する糖尿病患者約5,000人を対象に、5年間前向きに追跡した「福岡県糖尿病患者データベース研究」(FDR)により、日本の糖尿病足病変の実態が明らかになった。

 それによると、糖尿病足潰瘍の年間発症率は0.3%、切断率は0.05%と、海外の報告に比べて10分の1程度だった。白十字病院(福岡市)副院長・糖尿病センター長の岩瀬正典氏が第60回日本糖尿病学会年次学術集会(5月18〜20日、名古屋市)で発表した。

 糖尿病合併症のひとつとして、足潰瘍などの糖尿病足病変が注目されている。海外では糖尿病患者の2〜3%が活動性の足潰瘍を有し、足切断が年間0.3〜0.6%程度とされているが、日本では糖尿病足病変の大規模調査は行われていなかった。

 そこで、岩瀬氏らは大規模疫学調査である「福岡県糖尿病患者データベース研究」(FDR)のデータを用いて足病変の発症率と発症要因、生命予後について検討を行った。
足潰瘍の再発率は既往のある患者で高い
 対象となったのは、2008〜2010年に同県内の糖尿病専門施設に通院している外来の糖尿病患者5,131人(うち男性が2,854人、平均年齢65歳、平均罹病期間16年)。FDRでは、福岡県内の日本糖尿病学会認定研修病院または認定専門医の診療所、計16施設に通院中の外来糖尿病患者を登録し、前向きに追跡した。

 糖尿病足潰瘍の有無は年1回の自記式質問紙調査で調べ、医師が発症を確認した。追跡率は97.7%で、追跡期間の中央値は5.4年だった。

 その結果、追跡期間中に79人が足潰瘍を発症し、うち12人が切断した。1,000人年当たりの発症率は足潰瘍が3.0(発症率 0.3%)、切断が0.5(0.05%)だった。足潰瘍発症率は光凝固(0.73%)や透析導入(0.41%)よりも低率であることが判明した。

 足潰瘍の再発率は既往のある患者で高く、107人中24人(22%)が再発した。足潰瘍の再発の年間の発症率は5.26%、非既往例は0.21%だった。
HbA1cが8%以上の患者で足潰瘍のリスクは高くなる
 足潰瘍発症率は、HbA1cが7%未満の患者で発症率 0.25%で、7%以上8%未満の患者の発症率 0.24%と差がなかったが、8%以上の患者では0.46%と有意に上昇した。また、うつ症状のある患者(0.72%)がうつ症状のない患者(0.26%)に比べて有意に高率だった。なお、うつ症状の有無はCES-D16点以上とした。

 また、多変量調整Cox比例ハザードモデルを用いて解析したところ、足潰瘍発症のリスク因子として、(1)足潰瘍の既往(ハザード比 21.3)、(2)うつ症状あり(1.82)、(3)血糖コントロール不良(HbA1c値8.0%以上、1.69)、(4)男性(1.66)の4つの因子が浮かび上がった。

 さらに、足潰瘍の死亡リスクについて多変量調整Cox比例ハザードモデルを用いて解析したところ、足潰瘍患者ではハザード比は1.99倍、さらに心血管疾患既往、慢性腎臓病(CKD)を加えると1.77倍だった。足潰瘍は死亡の独立した危険因子で、死亡リスクを約1.8倍高めることが示された。

 足潰瘍がない患者の死因の第1位はがん(39%)だったのに対し、足潰瘍がある患者では循環器疾患(44%)による死亡がもっとも多かった。

 以上の結果から岩瀬氏は、(1)日本では欧米に比べ、足潰瘍発症率や切断の割合は約10分の1にとどまること、(2)足潰瘍の既往のある患者、HbA1cが8%以上の患者で足潰瘍のリスクは高くなること、(3)うつ症状による足潰瘍リスクの増加の程度は海外の成績と同程度であること、(4)足潰瘍患者における5年生存率は欧米の60%前後に比べて明らかに良好であり、これは欧米と日本の心血管疾患の発症リスクの相違が影響している可能性があることを指摘している。

福岡県糖尿病患者データベース研究
第60回日本糖尿病学会年次学術集会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲