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2018年02月15日

日本発のバイオマーカー 尿中L-FABPを活用した腎疾患管理

尿中L-FABPの臨床的有用性

 尿中L-FABPの有用性を、より実臨床に即してみていきたい。

糖尿病性腎症と尿中L-FABP

早期診断と進行予測

 先述のように糖尿病性腎症は尿中アルブミンレベルにより病期を判定するが、その病期進行に伴い尿中L-FABPも増加する(図3)。注目すべきは尿中アルブミンが30mg/gCr未満の正常アルブミン尿であっても尿中L-FABPは健常対照群より有意に高値であることだ。また2型糖尿病患者を4年間追跡し腎症進行の予測因子を多変量解析した結果から、観察開始時点の尿中L-FABPが基準値(8.4μg/gCr)より高値だとハザード比が7.3(p=0.000)に上ることが示された12)。これらより、尿中L-FABPは糖尿病性腎症をより早期に診断可能なマーカーであり、かつ独立した進行予測因子と言える。

図3 糖尿病性腎症の病期別にみた尿中L-FABP

図3 糖尿病性腎症の病期別にみた尿中L-FABP
〔Diabetes Care 34:691-696,2011より改変〕

ハイリスク患者の判別

 さらに興味深いことは、図4に示すように尿中L-FABPは尿中アルブミンより糖尿病性腎症進行リスクの予測に優れており、また両者を測定するとその予測能が相加的に高まるという点だ。かつて病態の主座は糸球体にあるとされていた糖尿病性腎症だが現在は尿細管の重要性も明らかになっている。図4も尿中アルブミンで捕捉しきれないリスクを尿細管障害マーカーである尿中L-FABPが拾い上げた結果と言え、両者を併用することでハイリスク患者を判別できると考えられる。

図4 尿中L-FABP・アルブミンレベル別にみた糖尿病性腎症進行の割合

図4 尿中L-FABP・アルブミンレベル別にみた糖尿病性腎症進行の割合
〔池森先生ご講演スライド〕

ハードエンドポイントでの検討

 腎症治療の一義的な目的は透析導入や脳心血管イベントを抑止することだが、その点でも尿中L-FABPの有用性は明らかだ。

 例えば618名の2型糖尿病患者を尿中L-FABPで三分位に分け、透析導入と心血管イベントをエンドポイントとして12年間追跡した結果が滋賀医大から報告されている13)。結果は尿中L-FABP高値群ほどイベント発生率が高く、各群間に有意差が認められた(第一分位〈5.0μg/gCr以下〉 vs 第三分位〈9.5μg/gCr以上〉のハザード比1.93)。さらには正常アルブミン尿であってもこの関係が存在し、既知の因子で調整後の多変量解析により尿中L-FABPが独立した危険因子として抽出されている。

 また最近、1型糖尿病患者2,329名を14年間追跡したデータが海外から報告された。それによると尿中L-FABP高値は脳梗塞発症と死亡率の独立した危険因子だったという14)

その他の腎疾患と尿中L-FABP

 糖尿病性腎症以外のCKDではどうだろうか。図5は聖マリアンナ医大と金沢大の共同研究で244名のCKD患者を4年間追跡し心腎イベントの発生をみたものだ。糖尿病の有無に関わらず尿中L-FABP高値であればイベントリスクが高いことがみてとれる。

図5 慢性腎臓病症例における心腎イベントと尿中L-FABP

図5 慢性腎臓病症例における心腎イベントと尿中L-FABP
〔Clin Exp Nephrol 20:195-203,2016〕

治療介入効果の判定

 治療効果の判定においても尿中L-FABPの有用性が示され始めている。

 現在、開発が進められているNrf2(NF-E2-related factor-2)活性化薬は、RAS阻害薬などが副次的な作用により腎保護効果をもたらすのと異なり、GFR改善作用を有する初の腎疾患治療薬として期待されている。しかし同剤により腎機能が改善しても尿中アルブミンは減少せず、むしろ増加してしまうことが明らかになっている15)。尿中アルブミンはNrf2活性化薬の効果判定に適さないということだ。

 そこで我々はCKDモデルマウスを作成しNrf2活性化薬の効果を検討した。すると同剤により尿細管障害が抑制され、それに伴い尿中L-FABPも減少することが確認された(図6)。

図6 Nrf2活性化薬の腎保護作用と尿中L-FABPの関係

図6 Nrf2活性化薬の腎保護作用と尿中L-FABPの関係
〔Hypertens Res 41:8-17, 2018〕

急性腎障害と尿中L-FABP

 続いてAKIに話題を進める。

AKIの発症予測

 図7は聖マリアンナ医大で心血管手術を施行した85名におけるAKIの診断能をいくつかのマーカーで比較したものだ。尿中L-FABPは、最近AKIのマーカーとして保険適用されたNGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)に比較しても、AKIの発症/非発症で顕著な群間差があることがわかる。

図7 心血管手術後AKI発症/非発症例別にみたバイオマーカー

図7 心血管手術後AKI発症/非発症例別にみたバイオマーカー
〔Circ J 76:213-220,2012〕

 また腹部大動脈瘤の治療では、比較的侵襲の軽いステントグラフト内挿術では術前の尿中L-FABP、侵襲の大きい開腹手術では大動脈遮断2時間後の尿中L-FABPが他のマーカーに比しAKI発症予測能が高く、そのカットオフ値はそれぞれ9μg/gCr、173μg/gCrであることを報告した16)。このほか関西医大から造影剤腎症に関して、投与前尿中L-FABPが24.5g/gCr以上の場合、感度82%、特異度69%でAKI発症を予測できると報告されている17)

AKIの重症度判定

 重症度判定に関しては、ICUの重症患者を対象にAKIのRIFLE基準とバイオマーカーの関係を検討した結果が東大から報告されている。それによると、尿中L-FABPやNGAL、NAG、IL-18、アルブミンのうち、L-FABPのみが非AKI、risk/injury、failureのすべてを鑑別できたという18)

AKIからCKDへの移行予測

 また近年AKI後にCKDへ移行する確率が高いことが注目されている。そこで我々は虚血再灌流(ischemia-reperfusion.IR)のモデルマウスを作成し検討してみた。虚血時間を長くするほど当然、尿細管障害やマクロファージ浸潤が強く生じるのだがIR1日後の尿中アルブミン、L-FABPもやはり長時間虚血した群で高値であった19)。さらにIR後40日経過した時点においても、長時間虚血群ではCKDを呈する組織所見が認められ、尿中L-FABPも依然、高値であった。

 このような基礎研究に加え海外からは、小児心臓 外科手術時にAKIを発症した群では手術24時間後のみならず7年経過した後も尿中L-FABPが有意に高いと報告されている20)。つまり尿中L-FABPをみることでAKIの発症や重症度判定だけでなく、CKDへの移行リスクを評価することも可能と言える。

次は...
尿中L-FABPの活用方法

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日本医療・健康情報研究所

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