ニュース(旧資料室) イベント・学会情報 テキスト(学習) データ(資料) 談話室(BBS) メールマガジン モバイル 初めての方へ
糖尿病の大規模臨床研究 トップページへ メールマガジン無料登録
UKPDS (United Kingdom Prospective Diabetes Study) (2)
今回はUKPDS内で実施された、厳格な血圧コントロールによる血管合併症の発症・進展の抑制効果を調べた研究について解説します。
解説:加藤 昌之  財団法人 国際協力医学研究振興財団 室長・主任研究員*
    *執筆当時(現在の所属:一般財団法人 東京社会保健協会 フィオーレ健診クリニック)
監修:野田 光彦  国立国際医療研究センター病院 糖尿病・代謝症候群診療部長*
    *執筆当時(現在の所属:埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科 教授)
2009年12月
研究目的
 2糖尿病患者において、血圧を厳格にコントロールすることで血管合併症の発症・進展を抑制できるかどうかを調べる。
研究デザイン
図1 割付の概略
 UKPDSの参加者のうち高血圧の人たち(内服なしで血圧160/90mmHg以上、または降圧薬内服中で血圧150/85mmHg以上)を対象としました。血圧スタディに参加した20施設でリクルートされた4,297名のうち血圧スタディの開始(1987年)前に243名が死亡か追跡不能になっており、残る4,054名のうち高血圧だったのは1,544名(38%)でした(図1)。除外基準は、治療上厳格な血圧コントロールが必要な人、治療上β遮断薬が必要な人、重篤な血管疾患のある人、重篤な疾患のある人、β遮断薬が禁忌の人、妊娠中の人、参加を拒否した人、としました。1,544名中396名が除外され残った1,148名(内服なしで血圧160/90mmHg以上が727名、降圧薬内服中で血圧150/85mmHg以上が421名)が1987年から1991年の間に血圧スタディにエントリーしました。対象者の背景因子を示したものが表1です。

表1 厳格コントロール群と通常コントロール群の対象者のベースラインでの背景
 対象者を内服のありなし別に、厳格コントロール群と通常コントロール群に無作為に割り付けました。
 厳格コントロール群(758名)では血圧の目標を150/85mmHg未満とし、400名がアンギオテンシン変換酵素阻害薬(カプトプリル)に358名がβ遮断薬(アテノロール)に割り付けられました。通常コントロール群には390名が割り付けられ、血圧の目標を180/105mmHg未満(開始時は200/105だったが1992年にこの値に変更)としアンギオテンシン変換酵素阻害薬とβ遮断薬は使わないようにしました。
 割付は血糖コントロール、血圧コントロールの組み合わせでバランスがとれるように考慮しました。
 カプトプリルは25mgを1日2回から開始し、50mgを1日2回に増量しました。アテノロールは1日50mgとし、必要なら100mgまで増量しました。割り付けられた薬剤の最大用量でも目標に達しない場合には他の薬剤を追加しました。

 参加者は3〜4ヵ月毎に受診し、血糖値、血圧、体重を測定し、血糖値や血圧が目標に達していない場合は薬剤の調節を行いました。

 UKPDS血糖スタディのエントリー時とその後3年ごとに参加者は眼底や視力、胸部レントゲン、心電図などの検査を受けました。血圧スタディの開始がこの定期検査の時期と一致しているとは限らないため、ベースラインとしては3年前までの検査結果を利用可能としました。
 視力は1989年まではスネルチャートで、それ以降はETDRSチャートを使って、矯正視力を測定しました。
 網膜症は眼底写真によりETDRSスケールを用いて評価しました。
 神経障害は膝蓋腱反射とアキレス腱反射および振動計で評価しました。


エンドポイント
 主たる解析は3つの主要エンドポイント(糖尿病関連エンドポイント、糖尿病関連死、総死亡)について行われました。(UKPDS(1)を参照)
 また異なるタイプの血管疾患への影響を見るために、4つの2次エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、末梢血管疾患による死亡と足切断、細小血管合併症)についての解析も実施されました。
 また網膜症の進行、視力低下などについて3年ごとに調査し、代理エンドポイントとして設定しました(図7参照)。


統計解析
 解析は厳格コントロール群と通常コントロール群についてITTベースで行われました。
 複合エンドポイントについては95%信頼区間を、単独エンドポイントについては99%信頼区間を計算しました。同様に3年ごとに評価された代理エンドポイントについても99%信頼区間を計算しました。
研究の結果
 1997年9月30日に研究は終了しました。
 追跡期間の中央値は8.4年でした。


血圧コントロール
図2 9年間の平均血圧の推移
(厳格コントロール群297名、通常コントロール群156名)
 割り付け時点での両群の血圧はほぼ同じでした(表1)。
 9年間追跡した者の平均血圧は厳格コントロール群(297名)で144(14)/82(7)mmHg、通常コントロール群(156名)で154(16)/87(7)mmHgで(p<0.0001)、収縮期血圧の差は10(95%CI 9〜12)、拡張期血圧の差は5(95%CI 4〜6)でした。
 9年目では血圧150/85mmHg未満の人は厳格コントロール群で56%、通常コントロール群で37%、また180/105mmHg未満の人は厳格コントロール群で96%、通常コントロール群で91%でした。
図3 目標血圧を達成するのに必要とした降圧薬の数の推移
 図3は降圧薬の増えていく様子を示したもので、9年目には厳格コントロール群で29%、通常コントロール群で11%が3剤以上の薬を必要としていました。


血糖コントロール
 1〜4年目でのHbA1Cは両群とも7.2%で5〜8年目では厳格コントロール群8.3%、通常コントロール群8.2%でした。


糖尿病関連エンドポイント
 通常コントロール群と比べて、厳格コントロール群では糖尿病関連エンドポイントで24%の低下が認められました(p=0.0046)。


死亡
 糖尿病関連死では32%の低下が認められました(p=0.019)が、総死亡では有意な差はありませんでした。

図4 厳格コントロール群と通常コントロール群での合併症の発生状況と相対リスク

図5 厳格コントロール群と通常コントロール群でのカプラン・マイヤー曲線

 細小血管合併症、糖尿病関連死とも厳格コントロール群で合併症が抑制される傾向は最初の3年間で明らかになっていました。



大血管合併症
 通常コントロール群と比べて、厳格コントロール群では心筋梗塞で21%の低下が認められましたが統計的に有意ではありませんでした。
 脳卒中では44%の低下が認められました(p=0.013)。
 下肢切断は49%の低下が認められましたが統計的に有意ではありませんでした。

 大血管合併症をまとめると通常コントロール群と比べて、厳格コントロール群では34%のリスクの低下が認められました(p=0.019)。


細小血管合併症
 通常コントロール群と比べて、厳格コントロール群では細小血管合併症で37%の低下が認められました(p=0.0092)。


NNT
(Numbers needed to treat)

 10年間で1人が合併症になるのを予防するために治療が必要な人数は6.1 (2.6〜9.5)で、この人数は糖尿病関連死では15.0 (12.1〜17.9)でした。


単独エンドポイント
 心不全のリスクは56%低下(p=0.0043)、光凝固は35%の低下(p=0.023)でした。
 腎不全については低下の傾向が認められましたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。
 事故やがんなどの死亡、またその他の原因による死亡や原因不明の死亡については両群間で有意な差はありませんでした。

図6 厳格コントロールと通常コントロール群での各エンドポイントの発生状況と相対リスク


代理エンドポイント

網膜症と視力
 追跡期間の中央値が4.5年のところから厳格コントロール群ではベースラインから2段階以上網膜症が悪化した人が通常コントロール群と比べて少なくなり、追跡期間の中央値が7.5年では34%の低下が認められました(p=0.004)(図7)。これは光凝固を必要とした人が少なかったためもありますが、光凝固を除外しても有意なリスクの低下が認められました。
 9年目ではETDRSチャートで3行以上の視力低下の人が厳格コントロール群では通常コントロール群と比べて少なくなり、47%の低下が認められました(p=0.004)。
 運転を避けた方がよいほどの視力低下(スネル視力表<6/12 または ETDRSチャート>0.3、小数視力では0.5未満に相当)の人の割合は厳格コントロール群で28%低下していましたがその差は有意ではありませんでした(p=0.20)。

ミクロアルブミン尿と蛋白尿、神経障害
 6年目の時点で厳格コントロール群では尿中アルブミン排泄が50mg/L以上の人が通常コントロール群と比べて少なくなり、29%のリスク低下(p=0.009)が認められました。300mg/L以上の蛋白尿も有意ではありませんでしたが39%低下していました(p=0.061)。
 しかし9年目の時点では50mg/L以上アルブミン尿も300mg/L以上の蛋白尿も両群間で有意な差はありませんでした。
 血清クレアチニン値や血清クレアチニン値が2倍以上になった人の割合は両群間で有意な差はありませんでした。

心電図異常
 追跡期間の中央値が7.5年の時点で厳格コントロール群では心電図上異常Q波のある人が通常コントロール群と比べて少なくなり48%のリスク低下が認められました(p=0.007)。
 大血管疾患関連のその他の代理エンドポイントには両群間で有意な差は認められませんでした。

図7 厳格コントロールと通常コントロール群での代理エンドポイントの発生状況と相対リスク


副作用
 重症の低血糖の累積頻度は厳格コントロール群で6.1%、通常コントロール群で4.4%と両群間で有意な差はありませんでした。通常コントロール群で1人が低血糖のため死亡しました。
 体重増加も厳格コントロール群で+2.0kg、通常コントロール群で+1.3kgと両群間で有意な差はありませんでした(p=0.13)。
まとめ
 本研究は糖尿病合併症の発症や進展に血圧が関与することを示した重要な研究です。本研究以前には糖尿病の患者さんの血圧コントロールにはあまり注意が払われていませんでした。このことは本研究の通常コントロール群の血圧の目標値が200/105 mmHgだったことからもわかります。目標値はその後変更されましたがそれでも180/105 mmHgです。現在では考えられないようなこの目標値が、当時は特に倫理的な問題もないと見なされていました。本研究により糖尿病の患者さんでの血圧コントロールの重要性が明らかになり、その後多くの研究が行なわれ、現在では血圧管理は糖尿病治療において重要な要素となっています。本研究はUKPDSの中で実施されたためにあまり目立っていないかもしれませんが、糖尿病治療戦略の転回をもたらした非常に大きな意味を持つ研究と言えるでしょう。


文献
UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38. UK Prospective Diabetes Study Group. BMJ 1998;317:703-713. (PubMedのAbstract: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/ 9732337)

※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。

Copyright ©1998-2018 Soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。
1. DCCT
より良い血糖コントロールは本当に合併症予防に有効か?
2. EDIC(1)
良い血糖コントロールをある期間続けると、その期間のあとも効果が継続して現れる!(細小血管合併症の検討)
3. EDIC(2)
良い血糖コントロールをある期間続けると、その期間のあとも効果が継続して現れる!(心血管疾患の検討)
4. DPP
薬よりも生活習慣改善のほうが、糖尿病発症予防効果が優れている
5. Kumamoto study
国内で2型糖尿病の患者さん対象に行われ、血糖コントロール指標の根拠ともなった調査研究
6. UKPDS(1)
1型糖尿病だけでなく2型糖尿病でも厳格な血糖コントロールが合併症抑制につながる
7. UKPDS(2)
血糖コントロールと厳格な血圧コントロールが合併症抑制につながる
8. Funagata Study(1)
日本における糖尿病やIGTの頻度が明らかに
9. Funagata Study(2)
動脈硬化は糖尿病発症前から進行している!