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糖尿病の大規模臨床研究 トップページへ メールマガジン無料登録
Funagata Study(2)
今回は山形県舟形町で実施された、空腹時高血糖や食後高血糖と総死亡および心血管疾患による死亡との関連を調べた研究について解説します。本研究はランダム化比較研究ではないため少しエビデンスレベルは低くなりますが、日本から発せられた糖尿病に関する重要な研究ということで、ご紹介いたします。
解説:加藤 昌之  一般財団法人 東京社会保健協会 フィオーレ健診クリニック
監修:野田 光彦  埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科 教授
2016年09月
研究目的
 空腹時高血糖(Impaired Fasting Glucose, IFG)が心血管疾患のリスク因子であるかどうかを調べる。
研究デザイン
 舟形町は山形県の東北部に位置し(参考図1)、農業を主な産業としています。人口移動が少なくコホート研究を実施するのに適していました。1990年から1992年にかけて、脳血管疾患などで障害のある人たち344人を除く40歳以上の舟形町の全住民を75g経口ブドウ糖負荷試験(75g-OGTT)の対象としました。2,534名(対象者の74.5%)がOGTT検査を受け、これらの人々をコホートの対象者としました。既に糖尿病と判明していた117名はOGTTの対象とはしませんでしたが、コホートには組み入れました。

参考図1:舟形町


 このコホートを、1985年のWHOの基準(参考図2)により、ブドウ糖負荷後2時間値に基づき、正常耐糖能(normal glucose tolerance, NGT)(2,016名)、耐糖能異常(impaired glucose tolerance, IGT)(382名)、糖尿病(253名、うち117名は既知の糖尿病)の3群に分類しました。


参考図2:WHO基準(1985年)によるNGT、IGT、糖尿病(左)と、ADA基準(1997年)によるNFG、IFG、糖尿病(右)。境界線上の場合は上のカテゴリーに含まれる(例えば、2時間値200 mg/dLは糖尿病に、空腹時血糖値 110 mg/dL はIFGとなる)

 各群の背景を表1に示します。NGT群に比べてIGT群と糖尿病群の平均年齢がやや高かったもののその違いは統計的には有意ではありませんでした。しかしこの違いが結果に影響する可能性もあるのでそれを考慮した解析も行いました。

表1:正常耐糖能(NGT)、耐糖能異常(IGT)、糖尿病の各群のベースラインでの背景

 初回のOGTT調査が実施された1990年6月から1996年の終わりまで舟形町に住所のある住民の死亡小票を総務庁から人口動態調査の目的外使用の許可を得て閲覧しました。研究期間中に舟形町で370人が死亡し、うち124人がコホート対象者でした。一方、舟形町役場の許可を得て転出者名簿も調査しました。研究期間中に112人が転出し、うち35人がコホート対象者でした。
統計解析
生命表法
 生命表法により総死亡と心血管疾患による死亡(冠動脈疾患と脳卒中)につき累積生存割合を計算しました。
人年法
 群間の年齢の違いを調整するために人年法を用いました。年齢は男女別に5歳間隔で層別化し、NGT群に対するIGT群、糖尿病群それぞれのオッズ比を計算しました。
Cox 比例ハザードモデル
 群間の年齢の違いを調整する別の方法としてCox 比例ハザードモデルを用いて、NGT群に対するIGT群、糖尿病群それぞれのハザード比を求めました。
 群間のハザード比を計算する際にはもう一つの群を(例えば、NGT群に対するIGT群のハザード比を求める際には糖尿病群を)存在しないものとして計算しました。
ADA基準(1997年)での再分類
 空腹時高血糖の死亡への影響を調べるために、コホート対象者を1997年のADAの基準(参考図2)に従って空腹時血糖値のみで正常(normal fasting glucose, NFG)(2,307名)、空腹時高血糖(impaired fasting glucose, IFG)(155名)、糖尿病(189名、うち117名は既知の糖尿病)に再分類して、同様の解析を行いました。

研究の結果
1985年のWHOの基準による分類(ブドウ糖負荷後2時間値のみでNGT、IGT、糖尿病に分類)での解析結果
 図1Aに示すように、7年間の追跡期間終了時点での累積生存割合はIGT群(0.916)、糖尿病群(0.898)とどちらもNGT群(0.954)と比べて有意に低下していました。NGT群と比べて、IGT群では6年目から、糖尿病群では3年目から、累積生存割合が有意に低下していました。


図1:NGT群、IGT群、糖尿病群での累積生存割合(生命表法による)
A: 総死亡についての累積生存割合
IGT群()、糖尿病群()どちらもNGT群()と比較して有意に低い
B: 心血管疾患(冠動脈疾患と脳卒中)による死亡についての累積生存割合
やはりIGT群、糖尿病群どちらもNGT群と比較して有意に低い
* P< 0.05

 死因を心血管疾患に限定した結果が図1Bです。追跡期間終了時点での各群の累積生存割合はNGT群で0.988、IGT群で0.962、糖尿病群で0.954となり、やはり両群ともNGT群より有意に低下していました。NGT群と比べて、IGT群では4年目から累積生存割合が有意に低下しており、総死亡の場合と比べて2年早く有意な差がついていました。


図2:NFG群、IFG群、糖尿病群での累積生存割合(生命表法による)
A: 総死亡についての累積生存割合
NFG群()とIFG群()との間には有意な差はないが、糖尿病群()ではNFG群より有意に低い
B: 心血管疾患による死亡についてもNFG群とIFG群の間に有意な差はない
* P< 0.05

 群間の年齢の違いを考慮した人年法での解析結果が表2です。NGT群と比較した総死亡のオッズ比は、IGT群で1.429 (95%CI 0.881-2.319)、糖尿病群1.743 (95%CI 0.802-3.785)でいずれも有意ではありませんでした。これはNGT群とIGT群、糖尿病群との総死亡の違いは群間の年齢の違いから来ていたということを意味します。しかし、死因を心血管疾患に限定した場合には、NGT群と比較した総死亡のオッズ比は、IGT群で2.303 (95%CI 1.022-5.188)、糖尿病群3.537 (95%CI 1.029-12.159)となり、群間の年齢の違いを考慮してもいずれも有意となっていました。

表2:オッズ比(人年法)

 Cox比例ハザードモデルでの解析結果が表3です。年齢が総死亡のリスクファクターであることがよくわかります。NGT群と比較した総死亡のハザード比は、IGT群で1.313 (95%CI 0.837-2.059)、糖尿病群で1.205 (95%CI 0.742-1.957)でいずれも有意ではありませんでした。一方、心血管死亡に関してはIGT群で2.219 (95%CI 1.076-4.577)、糖尿病群で2.274 (95%CI 1.069-4.838)でいずれも有意となっていました。

表3:Cox比例ハザードモデルによる解析

 まとめると、群間の年齢差を考慮に入れた人年法およびCox 比例ハザードモデルによる解析では、糖負荷後の高血糖はIGTの段階から心血管疾患による死亡のリスクファクターであることがわかりました。

1997年のADAの基準による分類(空腹時血糖値のみでNFG、IFG、糖尿病に分類、参考図2)での解析結果
 図2Aに示すように、総死亡についてはIFG(0.919)とNFG(0.951)との間に累積生存割合に有意な差はありませんでした。
 さらに心血管疾患による死亡に限定してもIFG(0.977)とNFG(0.985)との間に累積生存割合に有意な差はありませんでした。
 表2および表3に示すように、人年法およびCox 比例ハザードモデルによる解析でもオッズ比1.324(95%CI 0.012-140.91)、ハザード比1.136(95%CI 0.345-3.734) となり、IFGとNFGとの間に有意な差は認められず、IGTの場合と違ってIFGは心血管疾患による死亡のリスクファクターではありませんでした。
まとめ
 本研究は、日本人を対象として、IGTと糖尿病は心血管疾患による死亡のリスクファクターであること、一方IFGはそうでないことを示した重要な研究です。
 しかし、いくつか気になる点もあります。まず、IFGの心血管疾患による死亡数が少ない(3名)ことです。このため人年法での信頼区間は0.012〜140.91と極めて広くなっています。検定で有意となった場合にはほぼ差があると考えてよいと思われますが、有意とならなかった場合には、「差がなかった」だけでなく「差があったのに検出できなかった」可能性も考慮する必要があります。一般に、イベント数が少ないほど検出力は低くなるので、IFGは心血管疾患による死亡のリスクファクターであるのにそれを検出できなかった、という可能性もあります。
 また、心血管疾患による死亡がIFGやIGTの段階で起きているのか、それとも糖尿病への進展後に起きているのか、というのも気になるところです。ピマインディアンについての研究ですが、心血管死亡のリスクはIFGやIGTでは増加せず、糖尿病に進展した後に増加する、という報告もあります(Diabetes Care 2008;31:488-492)。もし、心血管疾患による死亡が糖尿病への進展後に起きているのであれば、IFGとIGTとの心血管疾患への影響が同程度であったとしても、糖尿病への進展速度の違いからこの2つの間の差が生じてくる可能性も考えられます。また年齢については考慮されていますが、血圧や喫煙、コレステロールなどの他のリスクファクターの影響が考慮されていないのもやや残念なところです。
 しかしながら日本人を対象として、しかも全住民を対象にOGTTを実施した本研究の価値は非常に大きく、日本人についてのエビデンスを語る際には必ずといってよいほど言及される研究です。


文献
Tominaga M, Eguchi H, Manaka H, Igarashi K, Kato T, Sekikawa A. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease, but not impaired fasting glucose. The Funagata Diabetes Study. Diabetes Care 1999;22:920-924.
Abstract(PubMed)

Kim NH, Pavkov ME, Looker HC, Nelson RG, Bennett PH, Hanson RL, Curtis JM, Sievers ML, Knowler WC. Plasma glucose regulation and mortality in pima Indians. Diabetes Care 2008;31:488-492.

※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。

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