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48何かに縛られている?
内潟安子  東京女子医科大学 糖尿病センター教授
2009年06月
 カーボカウント、CGMS(持続的に血糖値に近いものを測定する方法)、インスリンポンプなど、最近、多くの新しい情報をあちこちで耳にされることと思います。しかし、あわてたり、あせったり、する必要はありません。
人から指示されたくない
 「糖尿病の治療の第1は、情報、知識」であることはいうまでもありません。
 昨年でしたか、30代前半の1型糖尿病女性が紹介されて初診されました。とても元気のよい方で、はつらつとしておられました。とにかく医者に指示してほしくない「自分でこれまでやってきたからこれからも自分でやっていく」というわけです。こちらに紹介されたのは、これから結婚するので、今後のこともあり、受診先をこちらにしたいという理由でした。自分で全部する、したいというわりには、HbA1c値はよろしくありません。
 これまでのお話しをよくお聞きしますと、自分の場合「血糖が上下しやすく、むずかしい糖尿病なのだ、他の1型糖尿病の方の治療とは違うのだ」というわけです。だから、「自分で工夫してなんとかやっているからインスリン注射量など、さわってほしくない」というわけです。
 お話しはもっともなことなのですが・・・・・・
SMBGもあまりせずどうやってうまくやっているのか
 当方に来院されている血糖コントロールの上手な1型糖尿病の方など、毎日どれくらいのインスリン注射量を何回注射しているのか、ホントはあまり知りません。「その場に遭遇しないと、何単位注射するかわからない」ともいわれます。かといって頻回にSMBG(血糖自己測定)しているわけではありません。測定しても1日に1、2回くらいか? 「毎日の生活パターンは異なるし、食事の内容もその場に遭遇しなければわからないことが多い」ということで、まったくその通りだな、と思います(だから、カルテには、いってみれば適当な単位数を記載しているだけです?!)。
 しかし、それでも、異常な高血糖をおこさず、日中も夜中も低血糖は起こさず、朝起きられなかったことなどは全くなく、学校生活や会社生活を満喫しておられます。
基本知識の上に自分の体験を蓄積していく
 先ほどの女性とは、どこが違うのでしょうか。
 1つは、いまの状態よりも、これからのこと(これからの活動量とか、次回の食事はいつごろになるのか、など)に焦点を当てて考え、インスリン注射量を決めて注射していることです。
 2つには、使用している数種のインスリン製剤がどのように自分の血糖を降下させるか、よく理解していることです。自分の場合は○○○・・・のように血糖を下げるのだ、と知っていることです。○○○のようなものを食べるときはだいたい○単位注射すればいい、と知っていることです。朝寝坊したときはどうすればいい、と知っていることです。
 3つには、自分では「○単位くらいかな」と思ってインスリン注射量を変化させてみたがうまくいかなかった、その理由は○○○・・・・だと分析できていることです。
インスリン注射の基本をまずできていること
 このことを先ほどの女性にお話ししたところ、びっくりされるばかり。そんなふうにして血糖をコントロールできるなんて。「血糖が上がったら注射する」これを基本にしていたようです。これまでの主治医もたぶんいろんな話をしていたと思うのですが、耳を貸さなかった。主治医のいうことにしたがっていたら上手くいかないという思いの方が強かったのでしょう。
 ここでの教訓は、基礎的な知識はやはり必要である、ということです。微分積分は知らなくても足し算掛け算は必要、というわけです。
自分に合ったやり方を身につける
 多くの情報があり過ぎると、返って自分が身動きできなくなることにもなりかねないのです。
 たとえば、先ほどのインスリン調節[インスリン製剤の種類はかならずしもアナログインスリンではなく、N(中間型)とR(速効型)を頻回注射している方でも]をどのようにしているか当方にはよくわからないが、HbA1cがいつも良好な20代前半の若者。太っていない。このような患者さんはカーボカウンティングをしていません。ざっくりと食品交換表の「表1」の量に留意しておられますが。もちろん、計算機を持ち歩いてなんかいません。夜中に、もしかして低血糖になっているのでは?と危惧し、通常の生活の中でCGMSをつけてもらいましたが、夜中に低血糖は起こしていませんでした。もちろん、「朝低血糖で起きられなかった、という経験は思い出してみてもないな」というわけです。外来受診時にも、インスリンに縛られているとか、食べることに振り回されているとか、1型糖尿病というモノに縛られているなとか、全くこのような印象を受けないのですね。
 もう一人、なかなかHbA1cが下がらないと19歳時に紹介初診されたすこし太目の20代の女性。先日、HbA1cがとうとう7%を切りました。この方は「SMBGをするのがいや、縛られる感じがしていや」といわれるので、「それならSMBGをしないでやりましょう」と初診から経過して3年。SMBGをしないにもかかわらずだんだん低下してきて、やっとここまで来ました。
 もちろん、早くから良好なHbA1c値にできるのがベストですが。1型糖尿病を受け入れる、インスリン注射を受け入れる、などなど、心の中に葛藤が生じているときに、これがベストの方法だからやりなさい、といわれても、なかなか理性と感情は一致できないことが多く、うまくいきません。
 納得できる、無理のない、自分に合ったやり方を見つけることが、一番よろしいようです。

[追記] 2009年のアメリカ糖尿病学会で
 アメリカ糖尿病学会(ADA)にはいくつか賞があるのですが、今年度のベスト糖尿病教育者賞に、アメリカ・サンジエゴ大学医学部のエデルマン教授が表彰されました。ご自身が小児期発症1型糖尿病でインスリン治療をずっと行っております。とても朗らかな方で教授然としたところがまったくありません。
 表彰の対象は、主に、長年のTCOYD活動(Taking contorol of your diabetes)に対してです。これは、患者さんたちとの、大きな州を超えた糖尿病教室活動ともいうべきものです。
©2009 内潟安子


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