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糖尿病と感染症
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
真山クリニック院長 真山 享 先生


糖尿病の人は感染症にかかりやすく悪化しやすい

 糖尿病の人は、肺炎や膀胱炎、腎盂炎〈じんうえん〉、皮膚炎、歯肉炎、あるいはかぜといった、感染症にかかりやすいことが知られています。また、感染症が急速に重症化することも多く、回復には時間がかかります。そして、感染症にかかると血糖値が普段以上に上昇するので、コントロールが悪化し、糖尿病そのものにも影響がでてきます。

感染症に注意が必要な5つの理由

 糖尿病の人が感染症にかかりやすく悪化しやすいのはなぜでしょう。
 人間のからだは、体内に侵入しようとするウイルスや細菌と常に戦っています。これを感染防御機構といいますが、糖尿病では次のことから、感染防御機構が容易に破綻してしまうのです。

(1) 好中球の貪食機能の低下

 好中球〈こうちゅうきゅう〉は白血球の成分のひとつで、体内にウイルスや細菌が侵入すると、それを取り囲んで食い殺します(貪食〈どんしょく〉)。血糖値が高くなると、この機能が低下します。

(2) 免疫反応の低下

 免疫反応とは、一度感染した病原体に対し、体内でそれに対する抗体が作られ、次に同じ病原体がからだに侵入しようとしたときに、それを防ぐように働く仕組みのことです。高血糖では、この免疫反応も弱くなっています。

(3) 血流が悪くなる

 高血糖では、細い血管の血液の流れが悪くなります。このような状態では、酸素や栄養が十分に行き渡らず、細胞の働きが低下したり、白血球が感染部位に到達しにくくなって、感染しやすくなります。内臓の血流も悪くなっているので、肺炎や胆のう炎、膀胱炎、腎炎など、内臓の病気も起こりやすくなります。
 さらに、感染で受けたダメージの回復にも時間がかかりますし、抗生物質などの薬物治療でも、薬が感染部位に到達しにくいため、薬の効果が弱くなります。

(4) 神経障害が感染・悪化の一因に

 糖尿病の合併症の神経障害があると、内臓の活動が乱れやすく、膀胱炎や胆のう炎の原因になります(
コラム参照)。また、痛みを感じる神経も障害されるので、症状が現れにくく、感染症に気付くのが遅れ、その間に病気が進行してしまいます。

(5) 血糖値がより上昇する

 一度細菌類に感染すると、インスリンを効きにくくする物質(サイトカインなど)が多くなって、血糖値は普段よりも高くなります。このことが糖尿病の状態をより悪くしてしまい、感染症をさらに進行させてしまうという悪循環が生まれます。

主な感染症の症状と対策

 糖尿病の人は、あらゆる感染症にかかりやすくなっているといえますが、とくに次のような感染症に注意してください。

尿路感染症

 女性に多い感染症です。通常は尿道から感染し、膀胱炎、腎盂炎、腎盂腎炎と重症化していきます。合併症の糖尿病性腎症がある場合、その進行を加速してしまうこともあります。
症状 膀胱炎では排尿痛や残尿感、尿が濁る、トイレが近くなる(頻尿)など、腎盂炎、腎盂腎炎では、腰痛、発熱など。
対策 
・尿意を我慢しない。神経障害がある場合は、時間を決めて定期的にトイレに行く。
・陰部の清潔を心掛ける。女性はなるべく温水洗浄便座を使用したり、排便後のトイレットペーパーの使い方を注意する(前から後ろへ拭く)。

上気道炎・肺炎、結核

 上気道炎とは鼻やのどの炎症で、いわゆるかぜのことです。かぜをこじらすと、気管支炎、肺炎をひきおこします。
 結核は、かつて長い間、死亡原因のトップであり続けた病気です。現在は結核で亡くなる人は少なくなりましたが、患者数自体は最近再び増加傾向にあり、あなどれません。
症状 主にかぜの諸症状。感染症が重症になるほどひどくなり、胸痛、呼吸困難などが現れる。結核はかぜに似た症状のほか、胸痛、喀血〈かっけつ〉など。ただし、これらの症状が出るのは発病後かなり経過してから。
対策 
・こまめにうがいをする。うがい薬を用いればなお良い。
・インフルエンザのシーズン前には、なるべく予防接種を受ける。
・かぜだと思っても症状をあまくみない。かぜより重い病気にかっている可能性もあるので、医師の指示に沿い、必要ならレントゲン検査などの検査を受ける。

胆のう炎

 胆のう炎は、胆石があると起きやすい病気です。糖尿病の人は胆石を抱えている人が多く、また、神経障害により胆汁が滞りやすいことから、胆のう炎を発症しやすくなっています。
症状 上腹部の痛み、黄疸おうだん、発熱など。
対策 脂肪分の多い食事を控え目にする、大食をしない(胆石ができる原因となったり、すでにある胆石を刺激し、胆のう炎を起こす)。

皮膚感染症・足病変

 白癬〈はくせん〉(水虫)やカンジダ症などが、全身に起きやすく、とくに唇や陰部などの皮膚の薄い部分に出てきます。また、足の水虫が潰瘍へと進行し、壊疽〈えそ〉の原因になることもあります。
症状 皮膚のただれ、かゆみ、痛み、できもの、口内炎、水虫など。水虫は、皮膚だけでなく、爪にも広がってくる。
対策 からだを清潔にしておく。毎日入浴する。また、足の手入れを習慣づけ、小さな傷や水虫も早めに治療する。

そのほかの感染症

 糖尿病の人は、歯肉炎なども起こりやすいので、毎食後の歯磨きと定期的な歯科検診が大切です。
 また、頻度はまれですが、糖尿病の人に特徴的な感染症として、悪性外耳道炎、鼻脳ムコール症、非クロストリジウム性ガス壊疽、気腫性胆のう炎などがあります。自覚症状が現れにくい病気で、進行してしまうと治療が難しくなります。


感染症にかかったときの注意事項

 糖尿病の人が、感染症など糖尿病以外の病気にかかったときは、シックデイといい、特別な対処が必要になります。

血糖値が上昇します

 病気になると、血糖値を上げるアドレナリンなどのストレスホルモンやサイトカインが分泌されます。糖尿病でない人は、その分泌にあわせてインスリンも多く分泌されますが、糖尿病の人はインスリンの追加分泌ができないため、血糖値がいつもより上昇してきます。病気の程度により差がありますが、一般に血糖値は30パーセントは上昇するといわれています。

自己判断で薬物療法を中止しない

 病気になり、食事の量がいつもより少なくなったからといって、糖尿病の経口剤の服用やインスリン注射を、患者さん自身の判断で中止するのはとても危険です。病気により血糖値が高くなっているのに加え、薬を中止することで血糖値が極端に高くなり、ケトーシス(血液の酸性化)が起き、昏睡に陥ることもあります。
 薬の量をどう調節するかは、あらかじめ主治医の指示「シックデイルール」を受けて、それに沿って判断します。

早めに診察を受けましょう

 軽いかぜなどの感染症なら、一日二日、安静にしてようすをみるのもよいでしょう。しかし、食事がとれない、下痢が続く、回復する気配がない、薬の量の判断ができないといった状況なら、早めに診察を受けてください。ふだんインスリン注射をしていない人でも、容態によっては、一時的にインスリン注射が必要な場合もあります。

水分を多くとり、炭水化物とビタミンを十分に

 発熱や下痢をしている場合は、脱水状態にならないように、水分を多くとることが大切です。また、食欲がないときも、おかゆなどの消化吸収のよいものを食べ、炭水化物を十分とるようにしましょう。
 免疫反応を高めるビタミンCは、感染症からの回復を助けます。くだものや野菜類を多くとってください。

運動療法は一時控え、適切な時期に再開

 病気のときの運動は、心臓血管系や呼吸器系に多くの負担がかかりますので、運動療法は中止します。ただ、病気の回復期に適度の運動をすると、完治するまでずっと安静にしているのに比べて治癒が早まります。医師の指示を受け、適切な時期に軽い運動から再開しましょう。

栄養をつけるためといって食べ過ぎない

 よく、かぜをひいたらカロリーのあるものをたくさん食べて、抵抗力をつけたほうがよいといいます。しかし、いつもと同じ食事ができるのならそれでよく、とくに多く食べる必要はありません。


健康的な生活で感染症を予防しましょう

 感染症予防の基本は、できるだけ健康的な生活を維持し、ふだんから細菌類に対する抵抗力をつけておくことです。
 健康的な生活とは、例えばからだをよく動かすこと。運動により血流がよくなると、細胞の修復機能が高まり、抵抗力が強くなります。
 ストレスの発散も大切です。ストレスがある状況では血糖値が上昇し、体内に侵入しようとする細菌類の増殖を阻止しにくくなります。現代の社会生活の中で、ストレスを全く溜めるなというのは無理なことかもしれませんが、趣味やレジャーなど、なにかしら自分なりのストレス解消手段をみつけてください。
 また、食事の栄養バランスも大切です。摂取エネルギーだけを気にして、栄養が偏った食事を続けていると、抵抗力が弱くなってしまいます。指示エネルギー量を守ることはもちろんですが、栄養バランスにも気を配り、正しい食事療法をめざしましょう。
 そして、糖尿病の人が健康的な生活を送るうえで、最も重要なことは血糖コントロール。感染症のかかりやすさも、血糖値の高さと、血糖値が高かった期間の長さに影響されます。より良い血糖コントロールを続けることが、感染症予防に一番効果があるのです。
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