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目と健康シリーズ 別冊

Eye & Health
 

別冊:視神経乳頭の“異常”と“正常”
「視神経乳頭の異常」を指摘され再検査を受ける方へ

編集
東邦大学医療センター大橋病院眼科教授
富田 剛司 先生
も く じ


 近年、健康診断や人間ドックなど、眼底検査を行う機会が増え、目の病気を早い段階で見つけられるようになってきました。例えば失明原因の第一位である緑内障も、自覚症状が現れていない段階に発見し治療を始めることで、障害の進行をより確実に防ぐことができます。

 しかしその一方で、治療の必要がないわずかな変化や差異まで「異常」と判定され、精密検査を勧められるケースも増えています。視神経乳頭〈ししんけいにゅうとう〉の“異常”もその一つです。

視神経乳頭〈ししんけいにゅうとう〉とは

 眼球の内側にはカメラのフィルム・撮像素子に相当する「網膜」が広がっていて、瞳孔から眼の中に入った光はその網膜に像を結びます。網膜には光を感知する「視細胞」が1億個以上もあり、視細胞で感知した情報は「視神経」(光の情報を伝える細い電線に相当)を通って脳へ送られていき、映像になります。

 視細胞と脳を結んでいる視神経は網膜全体に張り巡らされています。その数、約120万本。その1本1本が眼球の奥の方に向かって収束していき、やがて1本の太い束となります。それはあたかも、細い電線が集まってできている電気コードのような状態です。

 その1本になった視神経の束が脳へと向かうために、眼球の壁(強膜)を突き抜ける一点のことを「視神経乳頭」といいます。

 視神経乳頭は、いろいろな病気によって、そのかたちに変化が現れます。その変化をおおまかに“異常”と判定し、病気を早期発見する手掛かりとするのが、健康診断や人間ドックの目的です。再検査(精密検査)では、治療が必要な異常かそうでないかを詳細に検討することになります。

 ここから、視神経乳頭にみられる変化や異常と病気の関係を解説していきます。



視神経乳頭の陥凹〈かんおう〉と、その拡大

 ところで、視神経乳頭の中央部分は少し凹んでいます。それは、視神経がたくさん集まると厚みのある層になるので、その層が乳頭から眼球の外に向かうために折れ曲がるとき、乳頭の中心に近い部分(神経の層の上面に該当する部分)は物理的に直角には曲がれず、ゆるいカーブを描いて曲がるからです。そのために乳頭中央部は少し凹んでいて、その凹みのことを「視神経乳頭の陥凹〈かんおう〉(乳頭陥凹)」といいます。

 このような理由で、視神経乳頭の陥凹はだれにでもみられます。しかし、その凹みが標準的な大きさよりも大きい場合、「陥凹拡大」と判定されます。検診などで視神経乳頭の異常として指摘されることが多いのは、この陥凹拡大です。

緑内障による乳頭陥凹の拡大

 視神経乳頭の陥凹拡大が起きる病気の代表は、緑内障です。

注意のサイン「乳頭出血」

 陥凹の拡大以外に、視神経乳頭の範囲内に出血が見つかる場合があります。この現象は、その部分の視神経が脱落しつつあることを示していると考えられていて、緑内障の可能性が高いと言えます。特に、眼圧は高くないのに視神経が脱落していく「正常眼圧緑内障」との関連が強いので、乳頭出血を指摘されたら、眼圧の高低にかかわらず必ず再検査を受け、緑内障であればきちんと治療を継続してください。
 緑内障は、眼球内の圧力「眼圧」に圧迫されて視神経の本数が少しずつ少なくなっていく病気です。その結果、視野の中に見えない部分が生じて、病気の進行とともにその範囲が拡大します。視神経は再生しないので、失われた視野は回復しませんから、治療を欠かさず続けることが大切です(緑内障について詳しくはシリーズNo.10を参照してください)。

 緑内障のために視神経の本数が少なくなると、神経の層の厚みが薄くなるので、乳頭の陥凹が大きくなります。ですから乳頭陥凹の拡大を指摘されたら、自覚症状がなくても再検査を受けて、緑内障かそうでないか調べる必要があります。そのための検査として、OCT検査や視野検査が行われます。

病的ではない“陥凹拡大”

 一方、健診などで“陥凹拡大”と指摘されても病的なものはではなく、治療は必要ないこともあります。というより実は、再検査の結果の大半がこれに該当します。その多くは、視神経乳頭が生まれつき大きい場合です。少し詳しく説明しましょう。

緑内障=乳頭陥凹が拡大する病気

 既に緑内障で治療を受けている患者さんが「健診で乳頭陥凹拡大と言われた」と精密検査を受けに来られることがあります。本文で解説しているように緑内障は乳頭陥凹拡大が起きる病気ですから、健診の結果はそれを指摘したものにすぎず、新たに別の病気がみつかったわけではありません。「緑内障=高眼圧になる病気」という誤解されやすい不十分な情報が社会に根付いているので、このような‘珍事’が起きるでしょう。
 視神経の数は先ほど書いたように約120万本で、だれでもだいたい同じです。しかし 視神経乳頭のサイズは、0.8〜4.5mmと、非常に個人差が大きいのです。視神経の本数は同じなのに、それが通る穴である視神経乳頭の大きさが異なるのですから、陥凹の大きさもバラバラになり、乳頭が大きい人で陥凹が大きくなるのは自然な現象です。これを健診の眼底検査で“陥凹拡大”と判定しやすいのです。

 もちろんこの状態は、陥凹が「大きい」だけで「拡大」しているわけではなく、緑内障などの病気や異常ではありません。

■ 眼底写真

① 正常
視神経乳頭の中央部は、だれでも少し陥凹しています(白っぽく見える範囲)。これを生理的陥凹といいます。

② 陥凹拡大
視神経が脱落した結果として、陥凹が大きくなっています。緑内障で治療が十分でないと、この陥凹が拡大していきます。

③ 生理的な陥凹拡大
生まれつき視神経乳頭が大きいために、陥凹も大きく見えます。
■ OCT 検査

OCT(光干渉断層計)という器械で視神経の層の厚みを測定して標準値と比較する検査です。

正 常

左側の円を囲んでいる線が緑色なのは、神経の層の厚さが全方向すべて標準の範囲内にあることを示しています。また右側の図は視神経乳頭を横から見たように表示した結果で、黒の実線が緑の範囲に入っていれば正常を意味します。
視神経の層の菲薄化〈ひはくか〉

左側の円を囲んでいる線が黄色や赤で表示されている部分は、その位置の神経の層が薄くなっている(菲薄化している)ことを意味します。右側の図でも黒の実線の一部が黄色や赤の層に入っていて、菲薄化が認められます。
■ 視野検査

① 正常
視野全体に異常はみられません。

② 緑内障による視野異常
視野の上の方に感度が低下している部分がみられます。緑内障で治療が十分でないと、この範囲が拡大し、感度もより低下していきます。

③ 視神経低形成の視野
視野の下の方に感度が低下している部分がありますが、基本的には治療をしなくても進行しません(視神経低形成の解説参照)。

緑内障以外の陥凹拡大・乳頭異常

 ここまでは視神経乳頭の異常を緑内障との関係から解説しましたが、頻度は少ないながら、視神経乳頭の異常が現れる次のようなケースもあります。

◇視神経低形成〈ていけいせい〉

 視神経の数がもともと少ないために、視神経乳頭が変形していたり、陥凹が大きくみえる状態です。精密検査で視野の異常がみつかることもありますが(視野検査の解説の③参照)、それを自覚することはなく、乳頭の変形や陥凹拡大も進行しないので治療は必要ありません。

 ただし緑内障を併発すると、もともと視神経の数が少ないので影響が大きく現れやすいため、よりしっかりとした治療が必要です。緑内障の有無を見極めるために、年に一度程度の検査をしばらく、続けることもあります。

◇強度の近視

 眼球が長いために近視の度が強い人は、視神経乳頭に異常が生じやすい傾向があります。また、近視の人は緑内障になりやすいこともわかっています。そのため、近視(特に強度近視)で乳頭の異常が見つかった場合、治療の必要性を慎重に判断することになります。

 なお、検診などで視神経乳頭の異常を指摘されOCT検査などの詳しい検査をしても、その異常が近視によるものなのか緑内障によるものなのか、判断しづらいことも少なくありません。

◇その他

 視神経に血液を送っている血管が詰まり血液が届かず視神経が失われてしまう前部虚血性〈ぜんぶきょけつせい〉視神経症や、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の影響で生じる網膜の萎縮〈いしゅく〉、または脳腫瘍〈のうしゅよう〉など脳内の病気のために視神経乳頭の陥凹拡大・異常が起きる場合もあります(シリーズNo.5「網膜静脈閉塞症」やNo.21「眼の神経の病気」を参照ください)。

シリーズ監修:堀 貞夫 先生(西葛西・井上眼科病院院長、東京女子医科大学名誉教授)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2015年12月発行
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