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寄稿 『はじめよう、災害への備え』
加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)
(2011年8月更新)
はじめに
東日本大震災で被災された方々の苦難・心労を思い、謹んでお見舞いを申し上げます。いつかは地震が起こるだろうと、覚悟をしていましたが、過去100年において、世界でも指折りの巨大地震が現実のものとなり、信じられないほど多くの貴重な物を失いました。しかし日本に住んでいる以上、いつまでも打ちのめされているわけにはいきません。 今回の災害を目の当たりにして得た教訓は「自分の安全は人任せではいけない」と言うことです。偶然や運といったどうにもならない要素もありましたが、心の準備も含めて、災害時の備えがあったか、危険を回避するために正しい行動を取れたかが、生死を分けたのです。
アンケート調査から浮かんだ災害への準備不足
「糖尿病ネットワーク」で行ったアンケートの一部を紹介します。患者さんに対するアンケートでは287人から回答がありました。「災害時の準備や対策を行っていますか?」との問いに対し、56%が特に行っていないと答えています。また「医療機関から災害時の指導を受けたことがありますか?」との問いに対し87%の方が指導を受けていないと答えています。医療機関が糖尿病患者会で指導をしても、参加しなかった方まで伝わりにくかった状況が容易に想像されます。当院では以前から作成してあった「災害マニュアル」の内容を検討し、心構えに関し患者・スタッフが一緒になって検討する会を開きました。参加者は非常に熱心でしたが、これを不参加者に充分伝えることが課題だと感じています。 糖尿病の災害対策への見直しは厳格にすべき状況となりました。今回はその時に内容を見直した「当院災害マニュアル」を元にして、糖尿病患者さんにおける災害対策に絞って記載いしたします。各医療機関と内容が異なる場合にはそちらに従って頂ければと思います。 避難所生活での注意点
【食事】〜炭水化物・高エネルギー食、塩分の過剰に注意:残す勇気を おにぎり、カップ麺、あんパン・クリームパンなどの菓子パンに代表される配給食は高炭水化物、高エネルギー食です。糖尿病のお薬やインスリンが足りないにも関わらず"せっかく配給されたものを残せない"、食事供給に対する不安の心理からから、"エネルギー過剰と分かっていても、全量を食べてしまう"場合が災害初期では多くなります。また、血糖測定器をもち出せなかった方が大半で、血糖値も全く分からないということが多かったのです。4月4日から現地入りした宮川高一医師らの医療チームが血糖測定器を持参して測定したところ、軒並み血糖値が300〜400mg/dLと血糖が上昇していた方が多く、"血糖コントロールは最悪の状態だった"との報告を聞いています。 避難所で食事を理想に近づけることは全く不可能ですが、到着した医療スタッフのアドバイスを受けながら、少しでも血糖が改善するように自分で考え工夫することが大切です。
【生活環境】〜水分不足、寒暖差対策、感染症対策、停電対策など 避難所は水の配給が充分でなかったり、トイレに行く回数を気にしたり、水分を摂ることを控えがちです。これは危険な事です。水分補給はきちんと行いましょう。 災害はいつ起こるかわかりません。真冬、真夏、両方に備えた対策を検討しておきたいものです。
【運動】〜エコノミークラス症候群、介護をさけるための運動 エコノミークラス症候群を聞いたことのある方も多いと思います。避難直後避難所では動き廻る訳にもいかず、動かない時間が増えます。車のなかで寝泊まりをする事になった方も同様です。すると下肢の血液の流れが悪くなり、静脈に血栓が出来ます。そして動いたときにそれがツルリと血管を離れて心臓を通って肺の血管に詰まります。すると胸が苦しくなり、下手をするとそのまま亡くなってしまう怖いものです。糖尿病患者さんで血糖が上がっているときには血液が固まり易くとても危険です。それを予防するには適度に体操や歩行などすることが必要です。 また、いままで畑仕事をしていた、家事をすべて自分でしていたという高齢者が、急に配給してもらった食事をし、動かないでいると、急速に筋肉や姿勢を保つための筋肉が衰えます。実際介護の要請は震災から3ヵ月後で従来の2倍以上増えてきています。率先して動きましょう! 以上ですが「周到な準備」が安全な避難を助けます。ヒトはのど元過ぎれば熱さを忘れやすいものです。これを機会に今週中に避難用品の総点検や、まだ何もやっていない方は家族・親戚・友人と一緒に用意をしましょう! 糖尿病患者さんが準備しておきたい「非常用持ち出し品」
東日本大震災では、糖尿病治療薬特にSU薬などの経口血糖降下薬、およびインスリン治療中の患者さんは薬がない、食事を食べられないという非常事態に直面しました。これらの教訓をふまえて、「非常用持ち出し品」として準備しておきたいものをリストにしてみました。
【糖尿病患者さんの災害事前対策】
それでは囲みのリストに沿って説明致しましょう。
1. 常用薬は常に最低でも2週間予備を持つ
薬は震災後2週間経たなければ入手できないと思いましょう。東北では首都圏がやられていませんでしたので、救援は早いほうだったと思いますが、首都圏自体が巨大地震に遭遇したときは、当分の間薬の供給はありません。幸い飲み薬は長時間室温保存が可能です。
2. お薬手帳、糖尿病連携手帳、保険証またはそれらのコピー
お薬手帳、糖尿病連携手帳、保険証またはコピー。これらの手帳が東北大震災では大きな威力を発揮しました。手帳を持ち出せた方への指導・処方は容易だったのです。
3. 「インスリン・血糖測定器・薬!」と書いたものを避難リュックに張る
「インスリンの未使用品は冷蔵庫で保存」とされているのですが避難リュックは室温ですから、災害対策は少々やっかいです。ノボラピッド注フレックスペン、ヒューマログ注ミリオペン等は共に未開封30℃で約1カ月安定であることが確認されています。従って避難リュックに1本入れておき、毎月きちんと替えて使用出来ればそれも一法です。
4. マスク、消毒綿、ウェットティシュー マスクは必須です。津波で運ばれたヘドロや粉塵を吸入していると、糖尿病患者さんは肺炎を起こしやすくなります。また避難所での感冒などの感染予防のためにも必須です。なおインスリン注射は、皮膚が泥などで汚れていなければ、消毒用アルコール綿が無くとも注射可能です。また針が足りなければ複数回使用も可能です。
5. 水2リットル/日を1週間分以上。配給水用のポリ容器
食料が無くとも1週間以上ヒトは生きられますが、水がなければ生きられません。非常用水は大変重要です。都市部の大災害ではその内給水に来るだろうという考えは危険です。東北大震災のあった夜を考えれば分かるように道は車と帰宅困難者(下手に家を目指すのは非常に危険!)。そこに多数同時に起こる火災で幹線道路は至る所で寸断されるからです。糖尿病の方は血糖上昇と脱水で血液がドロドロになりやすいため、水は特に必要です。
6. 非常食1週間分以上 非常食を一人1週間分以上。すぐにカップ麺を連想しますが、熱湯が得られないことも想定しての非常食の準備が必要です。なお、NHKの『ためしてガッテン』(平成23年7月27日放映分)で紹介された「フライパンと透明耐熱ぶた」を用いて少量の水で蒸し調理する方法は、水とコンロ等の燃料節約に極めて有効で、震災後の調理に極めて有効と思われます。あり合わせの野菜、卵などが短時間で調理でkます。貴重な熱源を用いて糖尿病患者さんの食事の偏りを少しでも是正するために用意したいものです。
7. ペンライト、携帯電話(非常用電池パックも) ペンライトは常に重要です。普段のカバンの中にも入れておきましょう。また携帯電話も重要です。非常時につなぐ携帯電池パックも用意しておきましょう。インスリンの単位合わせは携帯付属のライトで可能です。災害伝言ダイアルも予め使用方法をチェックしておくことです。なお、震災の火災原因では、調理・暖房からの引火のみでなく、損害を受けた家屋からの漏電がとても多いと言われます。避難時は「ブレーカーを落とす」、「ガスの元栓を閉める」、「水道の元栓を閉める」ことも、極めて重要です。
8. 屋内・屋外避難時のスリッパ・靴、靴下、下着など 室内にガラス、陶器の破片が散乱、外にも種々の障害物。足に怪我をしたら逃げられません。靴がないと移動が出来ません。また靴下や下着の替えを予め入れておきましょう。
9. ホイッスル、筆記具、ヒモ、安全はさみ、マッチなど もし半壊した家に閉じこめられたらホイッスルが威力。その他小物は各人が考えてみて下さい。 非常用持ち出し袋の準備
あなたは、緊急時のために"備え"を行っていますか?災害はいつどこで起こるかわかりません。外出先で遭遇したらどうするか、どのようなものを携帯しておくべきか、といったことも想定し準備しておくことをお勧めいたします。
診療が必要な時に、かかりつけの病院、主治医のもと行くのが困難であり、被災場所から最も近い病院・クリニックを探し、徒歩で向かわなくてはならなくなるかもしれません。あらかじめ緊急時を想定し準備をしておくことが大切です。 【非常用持ち出し袋に入れたいものベスト5 】
(東日本大震災後に糖尿病患者さんへ行ったアンケート調査結果から)
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寄稿『はじめよう、災害への備え』
加藤光敏 先生
(加藤内科クリニック院長) 1. はじめに 2. 避難所生活での注意点 【食事】【生活環境】【運動】 3. 糖尿病患者さんが準備しておきたい「非常用持ち出し品」 4. 「加藤内科クリニック」の災害マニュアル(糖尿病・非糖尿病共通) 災害時の備えに関するアンケート
災害関連情報
・避難生活における注意点
・インスリンで困ったとき ・阪神・淡路、中越大地震での教訓 ・災害時の食事 ・避難所での「健康運動」 ・非常用持ち出し袋の準備 ・医療機関でのマニュアル作成 ・糖尿病患者さんのための 「災害手帳」
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