12. 病気になった時の対策
シックデイ・ルール

2014年11月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
社会医療法人誠光会理事長 柏木厚典先生


. シックデイには特別な注意が必要です

 糖尿病の患者さんが何か不意の病気にかかると、ふだんはしっかり血糖コントロールできていても、血糖値が乱れやすくなり、急性合併症が起こりやすくなります。そのため、そのような状態を「sick day〈シックデイ〉(病気の日)」と呼んで、糖尿病の療養生活上、特別な注意が必要な日と位置付けています。

シックデイの注意 1

血糖値が大きく乱れやすい

高血糖になりやすい

 シックデイに該当する病気として、風邪や下痢、発熱、腹痛、食欲不振などのほか、外傷や骨折なども該当します。
 このような病気や状態は体にとってストレスとなるので、ステロイドホルモンなどのストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンは急性期における体の障害の防御に役立つ面がある一方で、インスリンの働きを弱め高血糖を引き起こします。糖尿病でなければ血糖上昇に応じてインスリン分泌が増えるものの、糖尿病の患者さんではそれが十分にできません。このためシックデイには血糖値がいつもよりも高くなります。

低血糖にもなりやすい

 その反対に、シックデイには食欲が低下していつものように食べられないことが少なくありません。薬物療法をしている患者さんの場合、食べる量が少ないにもかかわらずいつもどおりに薬を飲んだり注射すると、低血糖が起きてしまいます。さらに、病気によって生じる脱水が腎臓の機能を低下させるので、腎臓から排泄される薬の場合その成分が体内に滞り、血糖値が余計に下がるという影響もあります。
 つまり、シックデイにはさまざまな要因が複雑に絡み合って、血糖値が乱高下しやすいということです。


シックデイの注意 2

危険な急性合併症が起こりやすい

 ふだんの糖尿病治療の目的は、長年の高血糖によってゆっくり進行する「慢性合併症」(網膜症や腎症、動脈硬化など)を防ぐことです。しかし合併症には、病状が時々刻々と進行する「急性合併症」というタイプもあります。ふだんはめったに起こりませんが、シックデイには以下の急性合併症が起こりやすく、対処が遅れると生命の危険も生じます。

ケトアシドーシス

注意が必要な人:1型糖尿病の患者さん、インスリン治療をしている2型糖尿病の患者さん
予防のポイント:食べられなくてもインスリン注射を中断しない

 インスリンの作用が足りない時や、食事(炭水化物)の摂取量が少ない時、体内では脂肪がエネルギー源として使われ、その時に肝臓でケトン体という物質が作られ血液中に溜まってきます(ケトーシス)。ケトン体は酸性なのでその量が増えると血液が酸性になります(アシドーシス)。その状態を「ケトアシドーシス」といい、吐き気や腹痛が現れ、進行すると意識障害や昏睡に至ることから、緊急治療が必要です。
 ケトアシドーシスになる原因として多いのが、ふだんインスリン治療をしている患者さんがシックデイで食欲がない時に「何も食べないので血糖値は上がらないだろう」と判断してインスリン注射を自己判断で中断してしまうことです。インスリン注射は絶対中止してはいけません。食べられなくても、血糖自己測定を参考に単位数を加減して注射しましょう。

高血糖高浸透圧症候群

注意が必要な人:高齢の2型糖尿病患者さん
予防のポイント:水分を十分補給する

 前に解説したように、シックデイには血糖値が高くなりやすくなります。高血糖状態では尿浸透圧が上昇し体内の水分が尿中に移動し、体は脱水状態になります。加えて病気による下痢や発熱も脱水を強め、また食欲が低下している場合には、食事からの水分摂取も減り、さらに脱水を強めます。
 その上、脱水状態では血液が濃縮されるので血糖値がより高くなります。このような悪循環の結果、高度の脱水と著しい高血糖を来した状態を「高血糖高浸透圧症候群」といいます。全身の血液の流れが悪くなってさまざまな臓器の働きが低下し、緊急治療が必要です。
 高齢者は体内の水分量が少ないため少しの変化で脱水状態になりやすく、また、脱水状態になっても喉の渇きをあまり感じない傾向があります。熱があるときや食事をとれないときは、十分に水分を補給しましょう。


シックデイの注意 3

病気が重症化したり長引きやすい

 このような急性合併症にはならなくても、高血糖状態では体の抵抗力が落ちるので、病気が重症になりがちです。病気が治り切る前に別の感染症にかかってしまうこともあり、そうすると回復により時間がかかってしまいます。

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