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結婚から、妊娠・出産

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
東京女子医科大学名誉教授 大森安惠先生


良好な血糖コントロールを続けていれば
結婚はもちろん妊娠・出産も大丈夫です。

パートナーや家族の理解と協力が重要です

 糖尿病は慢性の病気ですが、安静を守って療養しなければならない病気ではありません。
 血糖がよくコントロールされ、合併症に注意していれば、結婚生活はもちろん、赤ちゃんを生むこともできます。
 かつて(1970年ごろまで)は、糖尿病の人の結婚、特に妊娠・出産は難しいといわれていました。そのせいか、今なお糖尿病が原因で、結婚をためらう若い人が少なくありません。
 結婚生活は、お互いの愛情や理解が基盤です。また、糖尿病でなくても、結婚生活を続けていく間には困難や苦難が伴うものです。結婚相手には、きちんと糖尿病であることを告げ、よきパートナーとして、妊娠や出産を応援してもらうために、糖尿病についての正しい理解と知識を持ってもらうようにしましょう。結婚前に主治医の所に行き、面談してもらうのもよいかもしれません。また、家族の方も、積極的な結婚、妊娠・出産に、温かいエールを贈ってあげてください。

糖尿病の人の妊娠・出産、今と昔

 1960年代なかばまで、糖尿病の妊婦さんから生まれる赤ちゃんの約70%は出生時の体重が 4,000グラムを超える巨大児でした。赤ちゃんが大きくて難産のため、分娩が長びいて死亡したり、そうでなければ未熟児であったりしたたため、糖尿病の人の妊娠・出産は非常にむずかしいと考えられていました。また、糖尿病昏睡で母体が危険にさらされることもありました。
 しかし、今では、血糖値を正常に保つ努力によって、巨大児の出産は約10%にまで減っています。また、糖尿病昏睡はもとより、分娩間近に突然赤ちゃんが死亡してしまう子宮内胎児死亡についても、経験ある医師の治療管理と患者さんの自己管理さえ十分ならば心配ありません。未熟児についても、出生後の新生児治療が進んでいるので、産科、新生児科などのチームワークがとれた病院であれば、安心して出産することができます。

安産のためには…

血糖をコントロールしないまま妊娠すると

 母子ともに健やかな、よい出産を迎えるためには、妊娠前から出産後まで、血糖値を正常域に保つことが第一条件です。
 もしコントロールが悪く、合併症を放置したまま妊娠すると、母体は糖尿病性網膜症が進んで視力障害になるおそれや、妊娠中に妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)などのトラブル、赤ちゃんには奇形の影響が心配されます。
 こうした母子のトラブルは、1型、2型を問わず、どのタイプの糖尿病の妊婦さんにも見られます。

血糖コントロールが悪いために起こるトラブル
赤ちゃんのトラブル
奇形 巨大児
子宮内胎児死亡
未熟児 低血糖
呼吸障害 黄疸
低カルシウム血症 など
 母体のトラブル 
 糖尿病性網膜症と
  腎症の悪化
 妊娠高血圧症候群
 羊水過多症
 膀胱炎 など

計画妊娠の実行を

 まだ未婚であっても、将来「子どもがほしい」と思ったときに備えて、発症したときから、合併症を引き起こさないよう血糖をきちんとコントロールすることが大切です。
 妊娠前に、妊娠してよいか合併症を主治医のもとでチェックし、血糖のコントロールを正常な人と変わらない状態まで治療して受胎することを、「計画妊娠」といいます。
 もし、コントロールが不十分であると診断されたら、主治医の許可が出るまで、きちんと避妊を続けましょう。
 また、自分の体のリズムを知り、いつ妊娠したのか自己管理をするうえでも、基礎体温を付けることが必要です。
 計画妊娠によって受胎し、妊娠中も十分な糖尿病の治療が行われたらなら、糖尿病であっても、特別問題なく出産することができます。

血糖コントロール

 血糖をよい状態にコントロールするため、発症から妊娠前後をとおして、食事療法、運動療法、薬物療法をきちんと行うことが大切です。特に妊娠中は、胎盤から出て妊娠を順調に進めるホルモンがインスリンの作用を弱めてしまう働きがあるため、正常な人でもインスリンが不足がちになって、妊娠糖尿病を起こすケースもあります。すでに糖尿病を持っている妊婦さんは、妊娠中はいっそうきびしい血糖コントロールが必要です。

コントロールにはげみましょう

血糖値の目安

妊娠前
食前血糖100mg/dL 未満、食後2時間血糖120mg/dL 未満、ヘモグロビンA1C6% 以下
妊娠中
食前血糖100mg/dL 未満、食後2時間血糖120mg/dL 未満、ヘモグロビンA1C正常範囲(4.3〜5.8%)
食事療法

太りすぎに要注意 難産の引き金になります
妊婦だからといって食べすぎは禁物です。妊娠にともなう体重増加は6〜8kg までに
妊娠後期の体重増加の目安は1週間で 300g 以内に
食品交換表を活用して、自分でエネルギー量が計算ができるようになり、カロリーを抑えた献立を
妊娠前半は1日150Kcal、後半は 350Kcal を妊娠のためのエネルギーとして追加摂取。基本カロリーは標準体重1kgあたり30Kcal
妊娠高血圧症候群予防のために、塩分は1日10g 以下に
赤ちゃんの発育のために、鉄分とカルシウムをしっかりと
良質のタンパク質とミネラル、ビタミン類をたっぷりと
運動療法

適度な運動でインスリンの働きを活性化
妊娠前から決まった時間に15〜30分程度の運動を(妊娠中は医師の指示に従って)
出産のための筋肉を鍛えるために1日30分の散歩を

妊娠後もすべてインスリン療法

 妊娠前から経口血糖降下剤で血糖がよくコントロールされていた人でも、妊娠を希望する時点でインスリン療法が用いられます。理由は、飲み薬は胎盤を通しておなかの赤ちゃんに運ばれるため、胎児に低血糖を引き起こすことがあるからです。また、妊娠するとインスリンの必要量が、妊娠前に比べて1.5〜2倍に増えるため、インスリンによる治療の方が適していることもあげられます。
 インスリンの使用量や注射の回数は人によって違いますから、医師の指導に従い正しく行うことが大切です。
 このとき問題になるのが低血糖です。特に妊娠初期になりやすい傾向があります。妊娠のすべての期間を通して血糖を十分コントロールすることが重要です。また、血糖のコントロールをよくするために、血糖の自己測定を十分マスターしておくことが大切です。

妊娠中のトラブル、予防と治療。

 妊娠をきっかけにしたり、また妊娠中に起こりやすい赤ちゃんや母体のトラブルについては
先にまとめました。正常な出産のためには、血糖コントロールを良好に保つことはもちろんですが、それぞれのトラブルについて予防策、治療方法を知っておくことが大切です。

合併症の悪化

 糖尿病性網膜症と腎症は、妊娠によって悪化しやすい合併症です。妊娠前に網膜症があるか、ある場合でも妊娠に耐えられるかをチェックすることが大切です。
 妊娠前から血糖コントロールを良好に保つのが一番の予防法ですか、網膜症のあるまま妊娠した人は、少なくとも1カ月に1回以上の眼底検査を受けます。最近では、光凝固療法という出血を防止する治療が行われるようになり、適切な時期に治療を受ければ、網膜症の進行を食い止めることができるようにもなっています。腎症の場合も、腎機がかなり低下するまで自覚症状が出てきません。そのため、定期的に腎機能検査を受けることが大切です。

妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)

 妊娠によって高血圧や尿タンパクなどが現れた状態です。子宮内胎児死亡の原因ともなる胎盤の早期剥離が起きやすくなったりします。従来は「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、さまざまな症状のおおもとは、妊娠によって引き起こされた高血圧であることが明かになり、最近「妊娠高血圧症候群」と呼ばれるようになりました。
 予防法は、低塩分、低カロリー、高タンパクな食事を心がけることです。特に塩分は1日10g 以下の摂取量におさえます。バランスのよい食事をとり、良質のタンパク質の吸収をよくするミネラル、ビタミンにも気を配ってください。

羊水過多症

 妊娠後半から臨月にかけて羊水は徐々に減っていくのが一般的ですが、羊水の量が異常に多いままの状態を羊水過多症といいます。
 羊水過多症は、母体の血糖が高いと起こりやすく、羊水過多症と診断されたら早産予防のため、安静入院を指導されます。

膀胱炎・腎盂炎・腟炎などの感染症

 妊娠すると一般に膀胱炎や、腎盂炎、腟炎、ガンジダ腟炎、トリコモナス腟炎にかかりやすくなるのですが、糖尿病の妊婦さんの場合、発症率が一般の妊婦さんより高い傾向がみられます。特に膀胱炎は、約6倍も発症しやすいという調査もあります。排尿後の痛み、残尿感があるときは、早めに受診し治療します。
 腎盂炎は、腎盂腎炎を起こし、さらに腎機能を悪化させます。

妊娠糖尿病

 健常な妊婦さんで妊娠中に初めて見つかる軽い糖代謝異常を妊婦糖尿病と呼びます。多くは出産が終わると正常に戻りますが、妊娠中放っておくと、巨大児や胎児仮死など赤ちゃんへの影響が心配されるので、適切な管理と食事療法が必要です。また、将来、糖尿病になる傾向があるので、引き続き、肥満防止の食事や運動などに心がけます。
 わが国では若年発症糖尿病でも2型糖尿病で、妊娠時に初めて発見される人が多いですので、妊娠糖尿病と糖尿病の診断・治療は区別します。

さあ、出産です

自然分娩も可能です

 糖尿病だからといって、出産は帝王切開になるとは限りません。合併症もなく、妊娠中血糖を良好にコントロールしていれば、自然分娩も十分可です。とはいっても、糖尿病の妊婦さんは、やはりリスクのある妊娠・出産となります。糖尿病の専門医はもちろん、出産後の対応が適切にできる新生児科医など、スタッフ、設備が充実した病院で出産してください。
 網膜症、腎症の合併症や、お母さん、赤ちゃんに何らかの危険がある場合は、出産前からの予定帝王切開となります。事前に主治医の説明をよくきいておきましょう。

産後のケア

 糖尿病の人も基本的に母乳で赤ちゃんを育てることができます。その場合、妊娠前に経口血糖降下剤を使っていた人も、授乳期間は妊娠中と同様、インスリン療法を続けなくてはなりません。経口血糖降下剤では、母乳に薬の成分の一部が出て、赤ちゃんの体内に入り、赤ちゃんの低血糖を引き起こすことがあるからです。
 また、妊娠によって増えた体重をもとに戻し、太りすぎを予防するためにも、授乳中の摂取カロリーに気をつけてください。基本カロリー(標準体重1kg あたり30kcal)+付加エネルギー量(600kcal)を目安にします。

おわりに

 コントロールが悪いと、糖尿病の妊婦さんに、トラブルが多いことは事実ですが、今では妊娠中の糖尿病治療が充実して、糖尿病であっても、妊娠・出産が十分にできるようになりました。
 しかし、安産のために一番重要なことは、日常の血糖コントロールです。日頃から自己管理を十分に行って、健やかな赤ちゃん誕生にトライしてください。
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  1. 糖尿病とは「基礎編」
  2. 食事療法のコツ(1) 基礎
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  4. 高齢者の糖尿病
  5. インスリン療法(2型糖尿病)
  6. 血糖自己測定とは
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  7. 肥満と糖尿病
  8. 小児の糖尿病(1) 基礎
  9. 薬物療法(経口薬)
  10. 糖尿病生活Q&A
  11. 糖尿病用語辞典(より簡潔に)
    1. 糖尿病用語辞典(より詳しく)
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