15. 糖尿病による失明・網膜症

2017年9月 改訂

網膜症は軽くても視力が下がる黄斑症

 ここまででおわかりのように網膜症は、失明の危機に直面する最後の最後まで、自覚症状がほとんど現れません。しかし網膜症の進行とは関係なく視力が低下する合併症もあります。それが黄斑〈おうはん〉症です。
 黄斑は、網膜の中央の部分で、視力を司っている部分、いわば網膜の中で最も大切な所です。黄斑が障害されると、たとえ黄斑以外の網膜が問題なくても視力が低下してしまいます。黄斑症のみであれば失明に至ることはありませんが、QOL(生活の質)が低下し、患者さんにとって大きな問題となるわけです。
 糖尿病による黄斑症としては、血管障害の影響による黄斑のむくみ(黄斑浮腫〈ふしゅ〉)がよくみられます。網膜症による失明予防のために行った光凝固をきっかけに、黄斑浮腫が起きることもあります。
 現在、黄斑部への光凝固や、抗VEGF薬(治療の項参照)またはステロイド薬を目に注射する治療が行われており一定の効果を挙げていますが、どのような治療法がベストなのかまだわかっておらず、試行錯誤が続いている段階です。

光干渉断層計という機械で見た黄斑浮腫。風船状の浮腫(水膨れ)が見えます(矢印)黄斑浮腫を抗VEGF薬注射で治療した後。浮腫(水膨れ)が消失しています

増殖網膜症に伴う血管新生緑内障


 
 増殖網膜症で問題になる新生血管は網膜や硝子体だけでなく、眼球の前のほうの虹彩〈こうさい〉という所にも発生することがあります。虹彩と角膜の境界には眼球内の水分(房水〈ぼうすい〉)を外へ排泄する小さな管(シュレム管)があるのですが、その管を新生血管が塞いでしまうと房水が排泄されにくくなります。すると眼球内の圧力(眼圧)が高くなって、視神経が圧迫されて視野が欠けてきます。これが血管新生緑内障です。
 ふつうの緑内障よりも治療が難しく失明に至ることが多いのですが、最近は抗VEGF薬で新生血管の活動を抑えるなど、新しい試みが効果を挙げています。

糖尿病と関係がある、その他の目の病気
(眼の構造については前掲のイラストを参照してください)

白内障 目のレンズ(水晶体〈すいしょうたい〉)が濁る病気です。歳をとれば誰にでも起こりますが、糖尿病のために発症や進行が早まることがあります。ほとんどの場合、水晶体を人工のレンズに交換する手術で、治療できます。
まぶたが開かない、物がダブって見える 糖尿病の合併症の一つ「神経障害」があると、このような症状が現れることがあります。多くの場合は一時的なもので、しばらくすると治ります。
遠視 血糖コントロールが急によくなったとき、一時的に遠視になることがあります。
目の血管や神経の病気 目の血管の太い部分が詰まったり、目の神経が侵されたりして、突然、視覚が障害されることがあります。
その他 目の表面(角膜)の病気、例えばドライアイなども、糖尿病や糖尿病合併症の影響で起きやすくなります。


格段に進歩した網膜症治療

 かつて眼科医は、網膜症に対してこれといった治療手段をもっていませんでした。しかし1960年代ごろにレーザー光凝固術が登場し、治療は大きく前進しました。視覚障害の回復はできないものの、病気の進行を遅らせることができるようになったのです。さらに硝子体手術の普及とともに、視力を取り戻せるケースが現れ始めました。そして近年、薬物治療という網膜症治療の三つ目の柱が注目されています。

レーザー光凝固術

白っぽく見える点がレーザー光を照射した瘢痕です
 血流がなくなっている網膜へ向けて、瞳孔からレーザー光を照射し、そのエネルギーで網膜を凝固する治療法です。凝固した部分は血液の需要が減るため、そこに新生血管が伸びてくるのを予防できます。
 所用時間は1回20〜30分程度。1回につき数十から数百箇所、凝固します。広い範囲に凝固する場合はこれを3〜4回します。点眼麻酔だけで外来(通院)で行えます。まぶしい感じはしますが、ひどい痛みはありません。新生血管の活動が活発なときなどは、病状が安定するまで日を変えて繰り返し行います。
 なお、光凝固はあくまで網膜症の進行を防ぐもので、視力をよくする治療ではありません。ただ、黄斑浮腫の原因の出血点を凝固し浮腫が改善した場合など、視力の改善が期待できることもあります。

硝子体手術

 硝子体は眼球内部の大半を占めているゼリー状の組織で、眼球のかたちを内部から支え、かつ眼球内の透明性を維持しています。硝子体に大量の出血が起きてそれが引かない場合、濁った硝子体を切除して人工の液体に置き換える硝子体手術で視機能の改善を図ります。網膜剥離に対しても、網膜を元の位置に戻す硝子体手術が行われます。
 また、新生血管は硝子体を足場にして伸びてくるので、硝子体を切除することで新生血管の活動性を抑えたり、増殖膜を介した牽引性網膜剥離の防止や黄斑浮腫の軽減のためにも、硝子体手術が行われます。
 硝子体手術は以前、視覚障害が発生した後に視力回復の望みをかけて最終手段として行うことが多かったのですが、手術の器具と術式の進歩により安全性が向上し、今では視機能が高度に低下する前に予防的に行うことも増えています。

薬物療法

 網膜症や黄斑症、血管新生緑内障の進行には、血管から血液の成分が漏れ出すことや新生血管の発生が強く関係しています。これらの現象は、網膜が虚血になったときに発生するVEGF(血管内皮細胞増殖因子)によって引き起こされます。そこで近年、VEGFの働きを抑制する抗VEGF薬を、硝子体に注射する治療法が普及してきました。とくに黄斑症の治療に多用されています。抗VEGF薬のほかにステロイド薬にも同じような効果があります。
 ただし、薬の効果が長続きしないために繰り返し注射が必要なことも多く、副作用への配慮は欠かせません。

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