糖尿病からの危険信号「神経障害」
サインを見逃さず、
回復のチャンスをつかもう
三大合併症のひとつにあげられる神経障害は、ごく初期の軽度のものも含めれば、多くの患者さんにみられる糖尿病の合併症です。初期症状である痛みやしびれは、軽くみられがちですが、病状の進行とともに激痛へ、そして、神経の壊死を示す無感覚へと、変貌する恐ろしさをもっています。また、最近では突然死との関連も指摘され、軽視できない病気として、再認識されつつあります。ただ、幸いなことに、比較的早期に自覚症状が出やすいため、さのサインを見逃さず治療に専念すれば、完治させることができます。治療の基本は、よい血糖コントロールを継続させること、これのみ。
つまり、予防も治療も、患者さんの日頃の自己管理にかかっているといえるでしょう。今回は、この神経障害の病気の実態と、早期発見のポイント、治療上の注意点についてご紹介します。
※神経障害については 18. 糖尿病による神経障害 のページで詳しく解説していますので、ご参照ください。
拷問のような痛みが何か月も続く自覚症状を逃さず、早期発見につとめよう
[神経障害の早期発見と治療のポイント]足に出る障害が最も多い
[こんなとき、神経障害が始まっている]
拷問のような痛みが何か月も続く
千葉県に住む歯科医師の菊池俊矢さん(仮名、45歳)は、9年前、神経障害で1年間苦しんだ経験をもつ。仕事に追われ、糖尿病の治療が思うようにできずにいたころ、ついに糖尿病昏睡を起こして入院。そのときに神経障害が出始めたのだ。当時、血糖値は450〜500だった。「最初は足の裏が分厚くなった感じで、感覚がなくなり、何だろうと思っているうち、その異常な感じが両足に広がって、足首、すね、膝、ももと、上にあがってきた。そして、膝を超えたあたりで、今度は強烈な痛みに変わったんです」。痛みを感じてから約2か月後のことだ。
痛みはとくに足首から下がひどく、ちょっと触れられただけでも飛び上がるくらい痛かった。安静にしても夜になっても、少しもよくならない。「眠るどころじゃない。もう拷問ですよ」。痛み止めを飲んで、それが効くころようやく眠って、朝、目が覚めると、また痛みと格闘する日々が始まった。
主治医の「回復には早くても2、3か月。とにかく血糖コントロールをよくして、それを継続すれば必ず治る」という言葉を支えに、ひたすら食事療法、インスリン療法に専念。とくに運動療法は、毎日20分の歩行がノルマ。痛みどめで感覚が麻痺した足を踏みしめ、がんばる。だが、努力もむなしく、痛みのゾーンは膝から20cm上まで進行してきた。
コントロールの改善が最高の特効薬
「痛み出して4か月に入ったころは、いつになったらよくなるのか、さすがに不安になりました。激痛は相変わらずで、仕事に復帰するめどもたたず、このころが一番苦しかった」。そんなある日、新しい痛みに気づく。膝上の痛みで、しかも、みみずがはうように移動する。主治医に報告すると。「それが、神経が回復してきた証拠ですよ」という返事が返ってきたのだ。
事実、それを機に、徐々にではあるが痛みが減り始め、まず膝上部分が、次にすねの上半分の痛みがとれた。後戻りする方向で痛みのゾーンが下がりだした。約6か月かかって、全部の痛みがようやくとれた。
「痛みがとくに強かった4か月間は、本当に長かった。でも、なんとかがまんできたのは、主治医の先生の的確なアドバイスがあったからです。病状に応じて、うるさがらずにきちっと説明してくれたので、納得できたし、回復を信じることができた。
今は月2回のゴルフもできるし、自転車にも乗れる。なんでもできるということが、とてもうれしい。近所の人だって、私が糖尿病だなんて知らないんですから(笑)」。 現在の菊池さんのHbA1cは6.7%。このコントロールが神経障害を克服したのだ。
知覚神経と自律神経が侵されやすい
「神経障害は、コントロールが悪い人に出てくる合併症です。高すぎる血糖が、じわじわと神経をむしばんで、その組織の本来の機能を奪っていくもので、HbA1cが7%以下ならまず発症しませんが、8%以上の方は要注意ですよ」。こう語るのは、菊池さんの主治医、東京都済生会中央病院内科の渥美義仁先生だ。人体の神経は、中枢神経(脳・脊髄)と末梢神経(からだの各所に張り巡らされている神経の伝達網)とで成り立っているが、糖尿病で侵されやすいのは後者。その末梢神経には知覚神経、自律神経、運動神経の三種があるが、神経障害はおもに知覚神経と自律神経に出る。知覚神経は、冷たい、熱い、痛いなど、あらゆる感覚を感じとる神経。自律神経は、生命保持に必要な心肺や消化器官などを、脳の命令に頼らず独力で動かす神経だ。
自覚症状を逃さず、早期発見につとめよう
「両方とも、私たちが生きていく上で、また生活していく上で、重要な役目を果たす神経ですから、これらがダメージを受ければ体調も悪化し、行動の範囲も縮小せざるを得なくなります。また、感覚が鈍るので、危険を察知する能力も落ちて、怪我など日常生活の中での危険性も倍増します。ただ、神経障害は比較的、自覚症状が出やすく、初期なら完治しますから、そのサインを見逃さないよう、おかしいと思ったら、すぐ主治医に報告してください」と、渥美先生はいう。
神経障害の早期発見と治療のポイント

神経障害についての知識をもつ
自分の現状をチェックする
なんらかの自覚症状がでたら、早めに主治医に報告し、検査する
足に出る障害が最も多い
では、どんな自覚症状に気をつけたらよいのか。詳しくは次のコーナーを参照していただきたいが、最も多い自覚症状は、しびれや痛みなどが中心の足の感覚異常だ。なぜ足に神経障害が出やすいのかというと、たくさんの神経の中で足の神経が最も長く、その分高血糖の影響をもろに受けるからだ。
ただ、神経障害が怖いのは、初期の痛みは軽くても、病状の悪化とともに菊池さんのように激痛になり、最悪の場合、神経そのものが壊死することがあることだ。そうなると激痛はなくなるが、その部分の感覚もゼロになる。
感覚がなくなると、日常のささいなことで怪我をしやすく、また感染症を併発したりすると、局所の壊死にとどまらず、その組織全部を切断しなければならない事態に発展することもあるのだ。
こんなとき、神経障害が始まっている
―自覚症状でみつける発症の可
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【足】 しびれ、痛み、冷え、こむらがえり ―注意点
【手】 しびれ、痛み、冷え、など |
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【心臓】 胸部圧迫感、胸やけ、吐き気 ―注意点
【血圧】 立ちくらみ |
![]() | 【胃腸】 胃もたれ、下痢と便秘を交互に繰り返す |
![]() | 【膀胱】 膀胱炎を繰り返す。尿が溜まっても尿意を感じない |
![]() | 【生殖器】 インポテンス |
からだの警報器が壊されてしまう怖さ
「痛みがなくなったとき、本当に治って痛みがないのか、神経が破壊されて痛みがないのか、ここを正確に見極める必要があります。患者さんの中には、神経が死んで痛みがないのに、治ったと思ってしまう方もいて、神経障害の怖さを思い知らされます。神経障害というのは、神経という情報を知らせる機能が壊されるわけですから、自分のからだの本当の状態を、本人ですらつかめないところがこわいですね」。
例えば心臓の知覚神経系が障害を起こすと、心筋梗塞を起こしても痛みを感じない。そのため、ふつうなら激痛で動けないところを、救急車に乗らずに歩いて病院にきてしまい、急速に予後を悪くしてしまう無痛性心筋梗塞などはよくあるケース。
また、胃腸に障害が出ると、機能も鈍化して、消化器吸収が不規則になり、コントロールをますます悪化させる原因にな
予防と治療のポイント
- (1)一次予防としては、血糖コントロールをよくして、神経障害が出ないようにする。とくに足に出やすいため、毎日1回は観察する
(2)強く神経障害が出てきた場合、血糖コントロールに全力投球し、主治医の指導のもとに障害に応じた対応をする
また、神経障害を悪化させる酒、たばこはやめ、生活を改善し、健康的な生活を心掛ける
時期を逃すと血糖コントロールも効かない
「神経障害は、糖尿病からの警告です。自覚症状などの警報が鳴ったら、病状がどの程度なのかを、主治医と相談して把握して、まず、基本の血糖コントロールに全力投球してください。また、必要に応じて病状にあった注意も守ってください」。ただ、残念ながら、血糖コントロールにも限界があり、ある時期を逃すとコントロールしても回復しないことが多い。透析をしたり、網膜症が進んだり、壊疽で足を切ってしまったりした場合などは、コントロールをよくしても効果は望めない。
「今コントロールをよくすれば間に合うというときには、医者は一生懸命忠告しているものですが、それを患者さんは『またオーバーにいって…』と軽視することがあります。チャンスを逃してしまって、後でブレーキをかけようとしても、後戻りはできないことを、ぜひ知っていただきたいですね」。
渥美先生はこう忠告している。
神経障害と診断されたら、怪我や事故に気をつけよう
- たちくらみ 急に立ち上がらず、杖を使ったり、何かにつかまってから立つ習慣をつける
- 入浴 いきなり湯船に入らず、手で湯加減を確認する
- 暖房器具 カイロ、湯たんぽは使用不可。電気毛布、ホットカーぺットは使用注意。
- トイレ 排尿を我慢しない。時間を決めて排尿する
- 足のチェック 傷や炎症がないか、1日1回確認。乾燥させないようクリームで手入れ。軽石でこすらない
(企画・構成 岩村有佑子)





