23. 口の中の健康

2011年8月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
東京女子医科大学先端生命医科学研究所客員教授
東京医科歯科大学名誉教授     石川 烈 先生


痛い歯がなければ問題ない?

「あなたの口の中は健康ですか」と聞かれたら、どのように答えますか? 「痛いところはないから大丈夫」、「少し痛い歯があるけど、まだ歯科医に行くほどでは…」など、いろいろな答えが予想されます。でも、本当に「痛くなければ健康」なのでしょうか。実は、専門的に調べると、35歳以上の人の約80パーセントに歯や歯茎の病気があることがわかっているのです。

歯と歯周組織の仕組み 虫歯・歯周病の症状
 
 虫歯は細菌が歯の表面につき、エナメル質を溶かすことから始まります。最初のうちは、表面がわずかに黒ずみときどきしみる程度ですが、虫歯は歯の内部で広がって行きます。歯髄(神経のある部分)まで侵されると痛みがひどくなり、ついには歯髄自体も死滅してしまいます。
 歯周病の初期症状は、歯肉が赤く腫れ、歯磨き時に血が出るなどです。そのうちに、歯と歯肉の間に歯周ポケットと呼ばれる袋ができます。そして歯周ポケットの中に歯垢が変化して硬くなった歯石が形成され、ポケットはさらに大きくなり、そこから膿が出るようになります。さらに歯肉が後退し、歯槽骨が減ると、歯は支えを失ってグラグラになります。

虫歯や歯周病は慢性の感染症

 歯の病気の大部分は、虫歯(う歯)と歯周病の二つで占められます。この二つとも、歯や歯と歯肉〈しにく〉(歯茎)の間にこびりつく歯垢〈しこう〉(プラーク)と呼ばれる物質が原因です。歯垢には何種類もの細菌が増殖しています。細菌の出す酸が歯の表面を溶かしてしまうのが虫歯で、細菌の毒素が歯肉に入り込み炎症を起こすのが歯周病です。つまり虫歯や歯周病は、細菌の感染が延々と続いている状態「慢性感染症」ということです。
 虫歯や歯周病は、どちらも治療しないでいると歯が抜け落ちたり、抜歯しなければならなくなります。とくに虫歯と違い歯周病はほとんど症状が現れずに進行するので注意が必要です。ここからは、糖尿病と歯周病の関係を中心に話を進めていまきす。

糖尿病と歯周病の相互関係

糖尿病は歯周病を悪化させる

 糖尿病で血糖コントロールがよくないと、さまざまな感染症にかかりやすくなります。歯周病も感染症ですから、やはり糖尿病によって発症・進行しやくなります。また、高血糖では唾液が減り口の中が乾燥して歯の自浄作用が低下すること、あるいは歯肉からの滲出〈しんしゅつ〉液や唾液の糖分が多くなること、組織の修復力が低下してしまうことなども関係しています。実際、糖尿病は歯周病の発症・悪化の危険性を2倍以上高めるという研究が多数報告されています。

歯周病は糖尿病を悪化させる

 糖尿病の患者さんが、かぜなどの感染症にかかると、一時的にインスリンの作用が弱くなり(インスリン抵抗性が強まり)、血糖値が高くなります。歯周病も感染症ですから、やはり血糖値を上げるように働きます。しかもかぜなどの一時的な病気と異なり、歯周病は慢性の感染症ですから、その影響がずっと続き、血糖コントロールを悪化させます。

歯周病は生活習慣病

 歯周病の原因は、歯磨きをしっかりしていない、たばこを吸う、糖分の多い食習慣、精神的ストレスなど、ほとんどが生活習慣に関係しています。これらは糖尿病を招く生活習慣でもあります。

歯周病の症状が血糖コントロールを乱す

 糖尿病など他の多くの生活習慣病と同様に、歯周病は何年ものあいだ症状に現れずに進行します。歯茎が痛んだり、歯がグラグラ揺れ出したら、歯が抜け落ちるまで有余はもうわずかしかありません。しかもそのような状態では、食事の量が減ったり食べるものが偏ったりして、食事療法や薬物療法を正しく行えないようになります。

互いの治療が両者に好影響を与える

 このように糖尿病の人は歯周病が発症・進行しやすく、歯周病のために糖尿病の治療がうまくいかないこともあります。反対に血糖をよくコントロールし適切に歯周病を治療すれば、双方に好影響を与える相乗効果を生み出します。歯周病の治療によって血糖コントロールが改善することを、私たち歯科医はしばしば経験します。

歯周病も合併症が怖い病気

 糖尿病は「合併症の病気」と言われるほど数々の合併症がありますが、歯周病にも合併症があります。
 例えば歯周病菌が口から気管支を通って肺に至り、肺炎を引き起こします。血液中に入った歯周病菌が感染性心内膜炎という心臓の病気を起こすことも知られています。また近年では動脈硬化やそれによる心筋梗塞脳梗塞が歯周病によって増えるという報告も複数みられ、実際に亡くなった方の解剖で血管の動脈硬化巣から歯周病菌が見付かることもあります。さらに、女性の妊娠中は歯周病になりやすいことが知られていますが、歯周病があると早産低出生体重児出産が増えることもわかってきました。
 このように歯周病は歯が抜け落ちるだけでなく、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。しかもそれら歯周病の合併症の多くは、糖尿病の合併症でもあることが問題です。
 しかしこのことは、歯周病をしっかり治療することが大きなメリットを生む可能性も意味しています。つまり、糖尿病の治療目的は「合併症の発症・進行を防ぐこと」で、そのために血糖コントロールを続けていくのですが、歯周病の治療は血糖コントロールの改善を介してその目的達成に役立つばかりでなく、より直接的に合併症予防に効果を発揮してくれるかもしれないのです。

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