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動脈硬化と糖尿病
メタボリック シンドローム(内臓脂肪症候群)

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
住友病院院長 松澤佑次先生


糖尿病のもうひとつの合併症

 糖尿病の合併症といえば、網膜症、腎症、神経障害の、いわゆる三大合併症がよく知られています。これらは高血糖により、細い血管が傷められることが大きな原因です。しかし、高血糖の影響は細い血管だけではなく、太い血管にも、動脈硬化というかたちで現れます。
 動脈硬化の原因は、高血糖のほかに、高血圧や脂質異常症(高脂血症)などがありますが、糖尿病の人はこれらの病気を併発することが多く、動脈硬化がより進行しやすくなっています。動脈硬化は、糖尿病のもうひとつの合併症なのです。
日本人の死因

厚生労働省「平成21年 人口動態統計」より

動脈硬化という病気

 動脈硬化は、血管の壁が硬く変化して血管が細くなり、血液が流れにくくなる病気です。血流が途絶えると、そこから先へは酸素や栄養が行き渡らず、細胞が活動できなくなり、ついには細胞が壊死します。狭心症や心筋梗塞などの心臓病や脳梗塞は、動脈硬化が原因で、心臓や脳の細胞が働かなくなることから発症します。
 日本人の死因の第1位はがんですが、2位と3位は心疾患、脳血管疾患が占めています。動脈硬化が人の命を左右する、大変重要な病気であることがわかります。また、糖尿病の合併症のひとつに足の壊疽がありますが、この発症にも動脈硬化が関係しています。

動脈硬化の危険因子

 動脈硬化を引き起こす要因を危険因子といいます。危険因子には、糖尿病のほかに、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、ストレス、性差(男性)、加齢などがあります。このうち、糖尿病、高血圧、脂質異常症は、互いに絡み合って動脈硬化を進行させます。これらはいずれも自覚症状がないまま進行する病気で、治療をせず放置してしまうことが少なくありません。気付かないうちに突然、生命を脅かすような状態を招きかねないため、サイレントキラー(静なる殺人者)と呼ばれることもあります。
 糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満が動脈硬化の進行にどの程度影響しているかを調べた調査研究の結果から、これらが単独で発症した場合でも、動脈硬化の発症率は5〜6倍になり、四つの条件が揃っている場合、発症率は 35倍にも高まることがわかりました。糖尿病の人は、高血圧や脂質異常症にも注意しないと、動脈硬化が加速度的に進行してしまうことが示されているのです。

内臓につく脂肪が大敵

メタボリックシンドロームの診断基準

ウエストサイズが男性85cm以上、女性90cm以上
↓↓
次の3項目のうち2項目以上が該当する
 ア.中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dL以上か
HDL-コレステロール40mg/dL未満
イ.収縮期血圧130mmHg以上か拡張期血圧85mmHg以上
ウ.空腹時血糖値110mg/dL以上
↓↓
メタボリックシンドローム
死の四重奏・     
シンドロームXの悪循環
 糖尿病と高血圧、脂質異常症、肥満が、互いに関連し合い動脈硬化を進展させる「マルチプル リスク ファクター(多重危険因子)症候群」は、これまで“死の四重奏”、“シンドロームX”などと現されてきましたが、今では「メタボリック シンドローム」という名称に統一されています(右の参照)。
 この症候群のキープレイヤーとしては、インスリンに対するからだの反応が悪くなる、いわゆるインスリン抵抗性が重要視されてきましたが、今ではインスリン抵抗性の上流にある内臓脂肪の蓄積が重視されていて、「内臓脂肪症候群」と呼ばれることもあります。
 では、内臓脂肪とは一体何なのでしょう。

肥満のふたつのタイプ

 体内の脂肪は、身体活動のためのエネルギーを蓄える大切な役割があります。しかし、脂肪が多すぎる状態=肥満は、からだにさまざまな悪影響を及ぼします。
 肥満は、脂肪がからだのどの部分に蓄積しているかで、大きく2タイプに分けられます。ひとつは皮下脂肪型肥満といわれ、全身の皮下に脂肪が過剰に蓄積している状態です。もうひとつは内臓脂肪型肥満といい、腹腔内の内臓のまわりにより多くの脂肪が溜まっている状態です。
 糖尿病などの生活習慣病に深く関係しているのは、内臓脂肪型肥満です。このタイプの肥満は、外見上はあまり太っているようには見えないことも多く、より注意が必要です。
 それでは次の項目から、内臓脂肪と糖尿病、高血圧、脂質異常症、そして動脈硬化の関係をみていきましょう。
互いに絡み合う、動脈硬化の危険因子

 

内臓脂肪型肥満

内臓脂肪が多すぎると…

 内臓脂肪が多すぎると、そこから遊離脂肪酸(体内の脂肪の一種)が放出されて、血液中の脂肪分が高くなる脂質異常症が起きたり、インスリンに対するからだの反応が低下する「インスリン抵抗性」が起きます。また、内臓脂肪の蓄積は、それ自体が細胞レベルの活動に異常をもたらし、動脈硬化を引き起こすことも、最近の研究でわかってきました(
囲み記事参照)。
上半身肥満
(リンゴ型肥満)
下半身肥満
(洋ナシ型肥満)

内臓脂肪の蓄積を確かめるには

 肥満のタイプのわかりやすい見分け方として、上半身肥満、下半身肥満という分け方があります。上半身肥満はおなかまわりの脂肪が目立つ体型、下半身肥満はお尻や足に脂肪がつく体型で、前者は男性、後者は女性に多い太り方です。また、外見から、上半身肥満はリンゴ型肥満、下半身肥満は洋ナシ型肥満とも呼ばれます。内臓脂肪型肥満は、リンゴ型、つまり男性に多い上半身肥満とほぼ一致します。
 上半身肥満の程度は、ウエストサイズが目安になり、男性では 85cm 以上、女性では 90cm 以上の場合、からだへの悪い影響が心配されます。
 内臓脂肪の蓄積を正確に把握するには、腹部のCT検査(コンピューター画像診断)が行われます。

インスリン抵抗性

 インスリンは、ブドウ糖をエネルギーに変え、血糖値を下げる唯一のホルモンです。内臓脂肪の蓄積でインスリン抵抗性が起きると、血糖値は上昇し、糖尿病が発症します。
 また、インスリン抵抗性は、イスリンが多量に分泌される「高インスリン血症」を招きます。これは、低下したインスリンの作用を「量」で補おうとする、膵臓の働きによるものです。
 しかし、インスリンの量が多過ぎると、腎臓でナトリウム(塩分)が排泄されにくくなる、肝臓で脂肪が過剰に作られる、血管の壁を成している細胞が増殖し血管内径が狭くなる、などの現象が起きてきます。これらはそれぞれ、高血圧、脂質異常症、動脈硬化につながります。さらに高インスリン血症は、ますますインスリン抵抗性を強めて糖尿病を進行させます。
 インスリン抵抗性が起きているかどうかは、血中インスリン濃度などの検査で確かめられます。

脂質異常症

脂質異常症と動脈硬化

 脂肪は水に溶けませんので、血液の中ではタンパク質の中に包み込まれて「リポタンパク」というものになり、全身に運ばれていきます。リポタンパクには、LDLなどのいくつかのタイプがあります。過食や運動不足、その他の理由で、血中脂肪が多くなった状態が脂質異常症です。脂質異常症は、動脈硬化のとくに重要な危険因子です。
    LDLコレステロール:細胞膜の形成 などに利用される反面、血管壁に入り込んで動脈硬化を引き起こします。
    HDLコレステロール:血管壁に染み込んだコレステロールを抜き取り肝臓へと持ち帰ります。

内臓脂肪蓄積と脂質異常症

 内臓脂肪が蓄積すると、そこから放出される遊離脂肪酸が多量に肝臓に入っていき、中性脂肪やコレステロールの合成を高めることが知られています。糖尿病がある場合のコントロールの目安は、中性脂肪が 150mg/dL 未満、LDLコレステロールが 120mg/dL 未満、善玉のHDLコレステロールが 40mg/dL 以上です。

アディポサイトカインと糖尿病・動脈硬化

 最近、内臓脂肪蓄積が糖尿病や動脈硬化を発症させる新しいメカニズムとして、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(ホルモンやサイトカイン)の役割がわかってきました。
 例えば、内臓脂肪が蓄積すると脂肪細胞から腫瘍壊死因子α (TNF-α) が大量に分泌されインスリンの働きを障害して糖尿病の発症につながることや、血栓を起こす PAI-1 という物質を多く分泌して心筋梗塞などの要因になることがわかりました。
 また脂肪細胞からは、アディポネクチンという糖尿病や動脈硬化を防ぐアディポサイトカインが分泌されていて、内臓脂肪が蓄積するとその分泌が低下して、糖尿病、動脈硬化の原因となり、メタボリックシンドロームをもたらすことが示されています。

高血圧

高血圧と動脈硬化

 血圧は、心臓から送り出された血液が動脈を流れる際に、血管の内側の壁にかかる圧力のことです。血管の内径が狭くなったり、血液の量が増えると、血圧が上昇します。高血圧状態では当然、血管の負担が大きくなり、動脈硬化を引き起こします。
 血圧は、心臓から血液が送り出されたときの値(収縮期血圧または最高血圧)と、心臓が拡張したときの値(拡張期血圧または最低血圧)でされます。糖尿病がある場合のコントロールの目安は、最高血圧が 130mmHg 未満、最低血圧が 80mmHg 未満です。

糖尿病と高血圧

 糖尿病の人は、インスリン抵抗性などが原因で高血圧になりやすく、発症率は、糖尿病でない人に比べて約2倍といわれてます。
 そして、高血圧は三大合併症のうちの腎症や網膜症にも悪影響を及ぼします。また、腎症が発症すると、腎臓内の血流量を保つために血圧が上がる「腎性高血圧」が起き、ここでも悪い循環が始まります。

糖尿病

 糖尿病は、高血圧や脂質異常症との相互関係の中で動脈硬化を進行させるとともに、血糖値が高いこと自体、タンパク質の糖化やHDLの減少などを起こし、血管の壁を傷つけ、動脈硬化を進行させます。

たばこ

動脈硬化
 

 

その他(性差・加齢など)

ストレス

動脈硬化を防ぐには

 ここまでみてきたように、糖尿病はほかの動脈硬化危険因子の存在を、大きなものにしてしまいます。動脈硬化は一度発症すると、血管を元通りの状態に戻すのは難しく、進行を遅らせることが治療の主目的になります。
 しかし、糖尿病、高血圧、脂質異常症それぞれは、適切な治療により、十分コントロールが可な病気です。動脈硬化を防ぐには、危険因子をひとつでも減らし、悪循環の輪を小さくすることが大切です。

危険因子をひとつでも少なくしましょう

 まず、血糖をよくコントロールしましょう。ナイスコントロールを保てば、危険因子のひとつはなくなったのと同じです。同時に、血圧、中性脂肪、コレステロールをコントロールしていきます。もちろん内臓脂肪型肥満の人は、ウエストをマーカーにして、それを解消することが基本となります。幸いにも、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、蓄積はされやすいものの、エネルギー消費(運動)により解消されやすいという性質があります。

食事療法の進め方

 食事療法は、基本的には「糖尿病食事療法のための食品交換」にそって進めていきます。指示エネルギー量を守ったうえで、次のような点に注意しましょう。

高血圧の場合

 塩分の摂りすぎに注意します。食品交換の、塩分が多い食品を示すマークに気をつけましょう。また、しょう油やみそなどの調味料は控え目にし、酢やレモンなどの酸味を利用するなどの工夫をします。漬けもの類は塩分が多いので、なるべく避けるようにしましょう。
 一般に日本人は塩分を1日平均 11g と、摂りすぎの傾向にあります。塩分を1日 10g 未満に抑え、それでも血圧が下がらなければ、1日6g 未満に、さらに減らすことも必要です。うす味の料理に慣れて、食材本来のおいしさを楽しんでください。

脂質異常症の場合

 食品交換3と5の摂り方に注意します。3では、脂肪分が多いことを示すマークに気をつけます。同じ肉でも脂肪の少ないものを選ぶようにしましょう。牛肉、豚肉、ハム、ソーセージなどの飽和脂肪が多い食品、コレステロールの多い卵などは控え目にしましょう。
 調理油は植物性のものを使います。また、食物繊維は血糖値やコレステロールの上昇を抑えてくれますので、なめべく多く摂るように工夫してください。
 コレステロールは、1日 300mg 以下に抑えるようにします。

からだを動かしましょう

 運動は糖尿病の治療に欠かせません。同時に血圧を下げ、血行をよくし、ストレス解消に効果があり、そしてなにより肥満を防止して、動脈硬化の危険因子の多くを改善する、とても重要な意味があります。体重そのものの減少がそれほど大きくないとしても、運動によって内臓脂肪が減ることが確認されています。積極的にからだを動かす習慣を身につけましょう。
 ただし、すでに動脈硬化が起きている人が激しい運動をすると、発作を起こしかねませんし、肥満の人では関節に負担をかけてしまいます。医師の指示を受け、適切な運動療法を進めてください。
 なお、食事・運動療法を続けても、十分な効果が現れないときは、薬により治療します。

たばことアルコール

 喫煙は血管を収縮させて高血圧を起こしたり、血管の壁を傷つけて動脈硬化を招く、重大な危険因子です。三大合併症にも悪影響を及ぼしますので、ぜひ禁煙してください。
 飲酒は適量なら高血圧や動脈硬化に良いともいわれています。しかし、糖尿病や脂質異常症には悪いので、糖尿病の人が動脈硬化防止のためにお酒を飲むというのは間違っています。

定期的な検査を忘れずに

 動脈硬化を取り巻く病気は、ほとんど自覚症状に現れずに進行しますから、定期的な検査は欠かせません。検査には、血圧や血中脂肪の測定はもちろん、心臓の予備力を調べる負荷心電図、血管の状態を直接確認する眼底検査、超音波による動脈硬化の程度の確認など、いろいろな方法があります。
 糖尿病の人は、これらの検査の意味をよく理解して、血糖値とともに、より良いコントロールの維持をめざしましょう。
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