薬物療法(経口薬)
監修東北大学名誉教授 後藤由夫先生
編集
自治医科大学名誉教授 葛谷 健 先生
![]() 薬物療法には、経口薬療法と |
I. 経口薬の役割
多くの患者さんが服用しています
糖尿病の治療は、食事療法、運動療法、薬物療法の三つがあり、高すぎる血糖値を正常域まで低下させ、合併症を防ぐことを目的としています。日本人の糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本ですが、それだけでは思うように血糖値が下がらないとき、補助的に薬物療法を行います。薬物療法には、インスリン療法と経口薬療法の二つがあり、大半の患者さんは経口血糖降下薬(経口薬)で治療しています。インスリン療法より経口薬療法の患者さんが多い理由として、血糖値がそれほど高くない場合には経口薬だけでも治療効果があがること、注射に比べて患者さんの心理的な抵抗感が少なく、内服するだけという簡便さがあげられます。
経口薬の種類が増えました
現在、国内で使われている経口薬は大きく分けると6タイプあります。患者さんの糖尿病の状態にあわせ、1剤だけで治療することもあれば、複数の薬を併用して治療することもあります。II. 経口薬の種類と特徴
| 血糖降下のしくみ | ||||
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SU薬
おもに膵臓のβ細胞に直接働きかけて、インスリン分泌を促進させ血糖値を低下させます。空腹時の血糖値をよく下げるという特徴があります。作用時間や効き目の強弱などにより多くの種類があります。副作用として、低血糖が起きることがあります。また、肥満が促進されることがあるので、服用に際して、食事療法の徹底が大切です。
BG薬
ビグアナイド薬(BG薬)は、肝臓の糖を作る働きを抑えると同時に、筋肉などでの糖の利用を促して、総合的に血糖値を低下させます。単独で使うこともありますし、SU薬などでは血糖値が十分に下がらない患者さんに、併用薬としても使われます。一時、乳酸アシドーシスなどの副作用の心配から、ほとんど使われない時期がありましたが、その後見直されるようになりました。
α-グルコシダーゼ阻害薬
食物に含まれているでんぷん・糖分の分解・吸収を遅らせることで、食後の急激な高血糖(食後高血糖)を抑える薬です。空腹時の血糖値がそれほど高くなく、食後高血糖がとくに目立つ患者さんに用いられます。また、ほかの薬で空腹時の血糖値は低くなっているのに HbA1cが改善しない患者さんにも、併用薬として使われます。他の経口薬と異なり、インスリン依存状態にある患者さん(おもに1型糖尿病の患者さん)が服用しても、食後高血糖の改善効果が得られます。
速効型インスリン分泌促進薬
SU薬と同じように膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促す薬ですが、薬を飲むとすぐに作用が現われ、作用時間が短いという特徴があります。このことから、α-グルコシダーゼ阻害薬と同じように、食後高血糖の改善を目的に使われます。比較的軽症の2型糖尿病の人では、食後にインスリンが遅れて分泌されるため、食後高血糖になる場合があります。そのような人がこの薬を服用すると、食事直後からインスリン分泌が始まり、高血糖を抑えることができます。
また、作用時間が短いため、低血糖を起こしにくいという特徴もあります。
DPP-4阻害薬
食後に十二指腸や小腸から分泌される「インクレチン」というホルモンは、血糖値が高いときにだけ膵臓に働きかけてインスリン分泌を促します。同時に、インスリンと反対に血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」の分泌を抑制します。ですから、このインクレチンの作用を補うと、高血糖のときにだけ血糖値が下がります。DPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素の働きを阻害(邪魔)することで、インクレチンの作用を助ける薬です。単独で服用する限り低血糖はまず起こりません(ただしSU薬と併用すると思わぬ低血糖が起きることがあります)
インスリン抵抗性改善薬
糖尿病で高血糖になる原因は、膵臓のインスリン分泌量が足りないことのほかにも、インスリンに対する体の反応が鈍くなって血糖値が下がらないこと(インスリン抵抗性)があります。この薬は、インスリンの抵抗性を少なくすることでインスリンの作用を高め、それによって血糖値を下げます。この薬が処方されるのは、インスリン抵抗性があると予測される患者さんです。具体的には、肥満、とくに内臓脂肪型肥満の糖尿病患者さんです。
III. 経口薬による治療の基本
経口薬はこんな場合に有効です
経口薬の使用が最も適した患者さんの条件は、食事療法と運動療法を守っているにもかかわらず、血糖コントロールが改善しない2型糖尿病の人です。注意しなければいけないことは、経口薬が効いて血糖コントロールが改善すると、つい安心して食事療法、運動療法をおろそかにしてしまいがちなことです。そうなると再びコントロールが悪化し、経口薬の効果も弱くなります。
―こんな場合はインスリン療法の適応になります ・妊娠中、または妊娠の可能性がある ・手術前後 ・肺炎など重症の感染症にかかっている ・足に壊疽がある ・肝臓または腎臓に重症の機能障害がある |
効果を絶えずチェックしながら使います
経口薬の治療では、まず少量から服用し始め、血糖値の動きにあわせて量を加減します。そして、血糖コントロールが安定した後も、定期的に検査をして効果を確かめていきます。長期間同じ薬のままでよいこともありますが、途中で効き目が悪くなり、インスリン療法等に切りかえたり、他の経口薬を併用する必要が出てくることもあります。
自覚症状では効果はわかりません
糖尿病は自覚症状が出にくく、かなり悪化しても気付かないことが多いので、薬が本当に効いているかどうかは、HbA1c検査や血糖測定などの結果で確認します。正しい服用が大切です
どんな薬でも、薬を飲む時間(食前か食間かなど)や量が定められています。定められた方法どおりに飲まないと、効果がなかったり副作用が起きやすくなったりします。例えばα-グルコシダーゼ阻害薬や速効型インスリン分泌促進薬は、食前に飲まないと効きません。最近では、経口薬の種類が増え、複数の経口薬を併用するケースも増えていますので、それぞれの薬を正しく服用することが、より大切になってきました。
食事・運動の基本をしっかり守ると、
薬の使用量を減らせます
どんなに副作用が少なくても、薬は体にとって異物です。必要がなければ飲まないほうがよいわけですから、ときどき初心にかえり、食事・運動療法を見直しましょう。食事療法を指示通りに実践して、薬の量が減ったり、薬が全く不要になる患者さんもいます。
IV. 治療の注意点
二次無効(おもにSU薬について)
SU薬を服用していると、次第に薬の効き目がうすれてくる、二次無効と呼ばれる状態になることがあります。その場合は他の経口薬を併用したり、インスリン療法等へ移行しなければなりません。ただ、二次無効にみえても実は、食事・運動療法が不十分でSU薬の効き目が落ちている例も少なくありません。二次無効が疑われる場合は、もう一度食事・運動療法を厳格に行います。入院するのもよいでしょう。食事に気をつけ、他の経口薬を併用しても効果がない場合には、インスリン療法等に切りかえます。
低血糖
低血糖は、血糖値が通常 60mg/dL 以下になった状態を指します。薬の作用が強く出すぎたり、食事の時間が遅れたとき、ふだんより多く運動したときに起こりがちです。ふるえ、動悸、発汗、脱力感、眠気、頭痛、目がかすむなどが主な症状です。低血糖の症状が出たら、すぐにブドウ糖(または砂糖やジュース)を口にします。薬物療法を始めたら、常にブドウ糖や砂糖などを身に付けるようにしてください。(詳しくは、このコーナーの「低血糖」のページをご覧ください)
α-グルコシダーゼ阻害薬服用時の低血糖
α-グルコシダーゼ阻害薬を服用していると、この薬は食物に含まれているでんぷん・糖分の分解・吸収を遅らせる薬ですから、砂糖をなめたりごはんを食べても、すぐには低血糖から回復しません。直接血糖値をあげるブドウ糖や、ブドウ糖を含むジュース類を口にしてください。アルコールと低血糖
アルコールを飲むと肝臓の働きが鈍り、薬が体内に蓄積しやすくなって低血糖を起こしやすくなります。糖尿病では基本的にアルコールはよくありませんが、経口薬を服用し始めたら、それまで以上に禁酒を心掛けてください。とくにBG薬は、アルコールを飲む人では副作用が強く出る恐れがあります。
そのほかの副作用
インスリン抵抗性改善薬では、むくみが現われたり肝機能障害が起きることがあります。また、α- グルコシダーゼ阻害薬では、おなかが張ったり放屁が増えたりします。低血糖が起きたり、その他の副作用と思われる症状が現われたときには、薬の量や種類を変えたほうがよい場合もあるので、受診の際に必ず主治医に報告してください。


