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糖尿病による腎臓の病気
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
滋賀医科大学名誉教授 吉川隆一先生


年々増加する糖尿病性腎症

糖尿病が原因で透析を受けている人の割合
(2009年現在)

 

 糖尿病は、日常の血糖コントロールがきちんとできていれば、こわい病気ではありません。
 ところが糖尿病は、発熱したり、体のどこかが痛くなったりといった自覚症状がないまま病状が進行するため、そのまま放置してしまったり、不適切な治療を行っていると、5年、10年たつうちに、深刻な合併症を引き起こすことになります。
 糖尿病が原因で、もっとも多くみられる合併症は神経障害、網膜症、それに今回紹介する腎症の三つで、これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれています。そのうち、網膜症は進行すると失明してしまいますし、腎症では末期腎不全におちいって、透析をしなければ生命を維持することができなくなってしまいます。
 腎臓は血液が運んできた体内の老化物をろ過し、尿として排泄する重要な機をもっているのですが、腎症が進むにつれ、尿をつくる機が低下し、最後には人工腎臓によって、腎臓の機を代行する透析療法をしなければなりません。
 残念ながらわが国では、こうした糖尿病が原因で透析療法を受ける人が、最近どんどん増えてきています。現在透析を受けている人の数は全国で 28万人、その3割が糖尿病性腎症によるものですが、これを最新の年間新規透析患者数でみると、3万7,000人中1万6,000人(2008年)と、4割強にも及んでいて、透析導入原因のトップを占めているのです。
 しかも、糖尿病で透析を受けている人のその後の経過は、ほかの病気で透析を受けている人に比べると、必ずしもよいとはいえません。

原因は高血糖

 なぜ、糖尿病が腎症を引き起こしてしまうのでしょうか。
 腎臓は、糸球体とよばれる細小血管塊が集まった組織で、この糸球体が、左右の腎臓のなかに100万個ずつもあります。この糸球体の一つひとつで、血液中の老廃物がろ過される仕組みになっているのです。
 糖尿病性腎症は、糸球体の細小血管が狭くなり十分に老廃物をろ過できないために起こります。その原因となっているのが高血糖です。
 このように小さな血管に何らかの障害が起こる病気を細小血管症といいます。糖尿病の三大合併症は、すべて細小血管症によるものです。網膜にも腎臓同様に小さい血管がたくさん分布しています。高血糖は、この小さな血管の正常なメカニズムを長い時間かけてじょじょに変えてゆき、障害を引き起こしていくのです。
 腎症の場合、高血糖、肥満、高タンパク、高食塩、それに、社会生活上のストレスなどの増悪因子が加わると、病状の進行に拍車がかかることが知られています。

糖尿病性腎症発症のメカニズム

    腎臓の糸球体では、正常な場合、タンパク質や赤血球や白血球などはろ過せず、水や電解質(ミネラル)、老廃物だけを通過させ、尿のもとをつくります。しかし高血糖がつづくと、この糸球体の血管が硬化し血管が狭くなると同時にろ過作用が低下し、だんだんとタンパク尿が出るようになったり、ついには尿が出にくくなって、老廃物が体にたまって尿毒症になります。


早期発見が大切! 微量アルブミン尿検査を定期的に

 糖尿病性腎症は自覚症状のないまま、じわじわと進行していきます。尿タンパク検査で陽性反応が出たり、体にむくみが出るなど自覚症状が起こったときには、かなり腎症が進んだ状態で、治療も腎症の進行を遅らせることが中心なってしまいます。このため、できるだけ早期に腎症を発見する必要があります。
 早期の腎症を発見するためには、微量アルブミン検査が有効です。この検査は、非常に微量のタンパク(アルブミン)を、感度のよい方法で尿から見出だす新しい検査方法ですが、検査を受ける人にとっては、一般の尿検査の方法と変わりありません。
 一般に、腎症は血糖コントロールが悪いと、糖尿病の発病から10年ぐらいたつと発症するといわれていますが、2型糖尿病では、発病がいつなのか正確にわからないため、糖尿病である人はすべて、血糖コントロールを良好に保っている人も含めて、予防の意味で、少なくとも年1回、微量アルブミン尿の検査を受けるようにしましょう。また、検査で陽性と診断された人は、腎機が低下していないか血液検査をあわせて行って、年数回、この微量アルブミン尿検査を受けるようにしてください。

腎症が発見されたら

 微量アルブミン検査が陽性と出る前後から透析まで、腎症は下記の五つの段階があり、それぞれ症状と治療のポイントが違います。

腎症の進行と病状・治療

病 期病状の特徴治療の特徴
正常期臨床的症状なし ★治療の目的→予防
  • 血糖のコントロールに努めよう
  • 健康的な食事に気をつけよう
    食塩・タンパク質の過剰摂取をさける
    塩分は1日10g 以下に(日本人は1日13g ぐらいとっています)
    タンパク質は1日体重1kg 当たり1g を目標に
  • 高血圧の治療に努めよう
    ・血圧計などで、血圧チェックを習慣づける
  • 微量アルブミン尿期(早期腎症)微量アルブミン尿検査が陽性
    自覚症状はないが、この時期から血圧が上がる人が多くなる
    ★治療の目的→
     進行をおさえる
  • 厳格な血糖コントロール
  • 血圧の管理
    必要に応じて降圧薬(アンジオテンシンII拮抗薬など)を服用
    食塩の摂取量を再チェック(1日7g ぐらいにおさえる)
  • 顕性腎症期タンパク尿が陽性
    腎機が急速に悪くなり透析導入も視野に入ってくる
    人によっては、この時期からむくみが出てくる
    ★治療の目的→進行を遅らせる
  • 厳格な血糖コントロール
  • 血圧の管理
  • 食事療法の切り替え(腎症の治療に重点を置く)
    食塩・タンパク質の摂取制限
    食塩1日5g 以下
    タンパク質は1日体重1kg 当たり1g 以下(できれば)0.8g が目標
  • むくみをおさえる
    ・必要に応じて利尿薬を服用
  •  
    腎不全期腎臓の糸球体で血液がろ過されず老廃物(尿毒性物質)が血液中にたまり細胞の働きが悪くなる
    尿毒症
  • 貧血
  • 体がだるい
    尿毒症性神経痛
  • 夜間手足が痛い
  • 皮膚がかゆい
    ネフローゼ症候群
  • 慢性的な体のむくみ
     尿タンパク 3.5g 以上(10〜15g にもなることがある)

    注意! 一見糖尿病がなくなったようにみえる
    インスリンによる薬物療法の場合、腎機が低下しているため分解が遅くなり、その分体内での作用の持続性が長くなる

  • ★治療の目的→症状をおさえる
  • 腎症治療により重点を置いた食事療法
    食塩・タンパク質の摂取制限
    食塩1日3g
    タンパク質は、1日体重1kg 当たり0.6g
  • 血圧管理の継続
  • 低血糖に注意
  • SU剤からインスリンへ
  • 水分制限
  •  
    透 析 期透 析

    血液透析と腹膜透析

     透析の具体的な方法は、血液透析と CAPD と呼ばれる腹膜透析の二つがあります。日本では、病院で行われる血液透析が全体の約90パーセントを占めています。透析を始める時期や方法は病態に応じて、主治医が判断します。
     血液透析は週に3回、4〜5時間をかけて病院で行われます。病院に通院しなくてはならない血液透析と違って、腹膜透析は携帯できるので、時間や場所を問いません。ただし、腹膜にカテーテルを挿入しなくてはならないため、衛生管理をおこたると腹膜炎を起こす心配があります。
     透析療法が始まると、食事療法は透析の方法に応じて切り替えます。それまで続けていたタンパク質摂取制限などが、やや緩和されることもあります。ただし、非透析日には体内に水分がたまりやすくなるので、水分の摂取量には注意しなくてはなりません。
     末期腎不全では、透析療法のほかに、腎移植があります。腎移植は成功率も高く、社会復帰や生活面を考えると、透析療法より有効だといえますが、日本では糖尿病性腎症による腎移植は、今のところあまり多く行われていません。
     しかし、透析を受けながらでも、社会復帰は十分可ですし、病院間のネットワークで、国内旅行はもちろん、最近では透析療法をしながら海外旅行を楽しむ人たちも増えてきています。

    糖尿病性腎症予防のキーポイント

     糖尿病性腎症は高血糖が最大の原因です。血糖コントロールを良好に保つことは、腎症の予防のうえでも大切なことです。
     一方、腎臓は病気がなくても、肺や心臓など他の臓器と同様、年齢とともに機が弱まってきますが、これに加えて、過食、高タンパク食、高塩分食が腎機低下を助長する因子として知られています。いずれも食事さえきちんと対応していれば防げることです。太り過ぎや塩からいもの、肉などのタンパク質の摂り過ぎに、日頃から注意しましょう。
     また、加齢による腎機の低下は、50歳を過ぎると、性別差があらわれることがわかっています。女性のゆるやかな低下に比べて、男性では機の低下が強くみられます。言いかえれば、それだけ、男性の方が腎障害にかかりやすい傾向にあるとも言えます。同様に、家族に腎症の人がいれば、遺伝的なものや、環境、食事などの習慣が似ているなどの理由で、腎症にかかりやすい傾向があるので、気をつけてください

    腎臓にやさしい生活をしましょう

     糖尿病の合併症は、自覚症状のないまま進行するので、腎症の場合、症状の一つであるむくみに気づくころには、すでに腎症は透析導入が視野に入るところまで進んでしまっています。
     また、腎症を併発すると、糖尿病に対する食事管理に加えて、腎臓障害に配慮した塩分、タンパク質の摂取制限が、腎症の進行段階に応じてむずかしくなり、食事療法がいっそう難しくなっていきます。
     自覚症状がなくても、血糖コントロールをよくし、定期的に尿検査を受けたり、塩分やタンパクの摂り過ぎに注意した食事にするなど腎臓にやさしい生活を実行することが、糖尿病による腎臓障害を予防するうえで大変重要です
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    1. 糖尿病とは「基礎編」
    2. 食事療法のコツ(1) 基礎
    3. 運動療法のコツ(1) 基礎
    4. 高齢者の糖尿病
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    11. 糖尿病用語辞典(より簡潔に)
      1. 糖尿病用語辞典(より詳しく)
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