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糖尿病と高血圧
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
埼玉医科大学病院病院長
 内分泌・糖尿病内科教授 片山茂裕先生


糖尿病の人は血圧も要チェック

 高血圧の患者数は国内で約4,000万人といわれ、まさに国民病といえます。同じように糖尿病も、予備軍を含めると患者数 2,210万人に上る病気です。そして、糖尿病の人は血圧が高くなりやすく、40〜60パーセントが高血圧をあわせもっています。
 糖尿病も高血圧も、どちらも症状のないまま進行し、さまざまな合併症を引き起こします。直接死につながる可性があり、日本人の死因の上位を占める脳卒中や心筋梗塞などの怖い病気も、糖尿病や高血圧が互いに影響しあって動脈硬化が進行した結果、発症します。また、高血圧により、糖尿病性腎症が急速に進んでしまいます。
 糖尿病の人は、血圧がそれほど高くない軽い高血圧でも、積極的な治療が必要です。血糖値とともに血圧をコントロールできるか否かが、いつまで元気で生活できるか、その人の人生を大きく左右します。

血圧とは、高血圧とは

 血圧とは、血液が流れる際に血管の内側にかかる圧力のことです。血圧が上がる直接的な理由はふたつあります。ひとつは血管が硬くなり広がりにくくなること、もうひとつは体内を循環している血液の量が多くなり過ぎることです。
 

血圧に影響を与えるもの 血圧は、喫煙や入浴などのすぐに影響が現れる一時的な要素と、運動不足や加齢などの徐々に影響が現れる長期的な要素に左右されます。

血圧を上げるもの
高食塩、喫煙、食べ過ぎ、ストレス、便通時などの力み、肥満、運動不足、季節(冬)・寒さ、アルコール摂取、遺伝的な体質、加齢、高血糖や動脈硬化など血圧を上げる病気
血圧を下げるもの
睡眠、休息、入浴、運動習慣、季節(夏)・暑さ、適量のアルコール(医師が判断する範囲)摂取
高血圧と診断されるのは 一般に、収縮期血圧(心臓が収縮して血液を送り出したときの血圧。最高血圧)が 140mmHg 以上、または拡張期血圧(心臓が拡張したときの血圧。最低血圧)が 90mmHg 以上のときに、高血圧と診断されます。
高血圧の原因 患者さんの9割以上は、原因を特定することができない「本態性高血圧症」です。塩分の多い食習慣、肥満、ホルモン分泌の異常、遺伝的素因など、さまざまな要因が考えられます。これとは別に、血圧を上げるほかの病気があるために高血圧になる「二次性高血圧症」もあります。
高血圧の症状 軽症の高血圧は、全く症状がありません。中等症以上になると、頭痛や動悸、めまい、肩凝り、手足のしびれなどが現れることもあります。
高血圧の合併症 高血圧を放置すると、脳卒中、心臓病、網膜症、腎疾患など、さまざまな合併症が起きてきます。これは、高血圧状態が血管の壁を傷付け、動脈硬化を進行させることと深く関係しています。
注意点 高血圧は糖尿病と同じで自覚症状に乏しいため、血圧が高いと指摘されても、つい放置してしまいがちです。しかし、定期的な検査を受け適切な治療を継続しないと、恐ろしい合併症が進行してしまいます。

糖尿病で高血圧が問題になる理由

理由1
糖尿病には高血圧の人が多い

 糖尿病の人の 40〜60パーセントが高血圧をもっていますが、これは糖尿病でない人の約2倍の頻度です。また、年齢が若いうちから血圧が上がり始めることが多く、罹病期間が長い人が多いため、合併症が現れる頻度が高くなっています。
 糖尿病の人が高血圧になりやすいのには、次のような背景があります。

血糖値が
正常な状態
 
高血糖状態
(1) 高血糖で循環血液量が増える
 血糖値が高い状態では、体内の細胞の浸透圧が高くなっています。そのため、水分が細胞内から細胞外に出てきたり、腎臓からの水分の吸収が増えたりして、体液・血液量が増加し、血圧が上昇します。

(2) 肥満の人が多い
 肥満していると、交感神経(自律神経のひとつで心臓や血管に働きかけます)が緊張し、血圧を上げるホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が多く分泌されるので、高血圧になります。糖尿病(2型糖尿病)の人は太っていることが多く、高血圧になりやすいのです。

(3) インスリン抵抗性がある
 インスリン抵抗性とは、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下している状態です。インスリン抵抗性は、それ自体が糖尿病の原因になりますが、同時に、インスリンが効きにくくなったのを補うためにインスリンが多量に分泌され、「高インスリン血症」を招きます。高インスリン血症では、交感神経の緊張、腎臓でナトリウム(塩分)が排泄されにくい、血管壁を成している細胞の成長が促進される、といった現象が起きて、血管が広がりにくくなり、血液量も増え、血圧が高くなります。

(4) 糖尿病性腎症から高血圧に
 糖尿病の合併症の腎症があると、腎臓から血圧を上げるホルモン(レニン)が分泌されたり、血液のろ過機が低下し血液量が増えて、血圧が上昇します。

理由2
動脈硬化がより起こりやすくなる



 動脈硬化とは、動脈が硬く弾力性がなくなり、血管内径が狭くなることです。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす怖い病気です。
 動脈硬化の原因は、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、肥満などがあります。この四つは互いに悪影響を与えながら、動脈硬化を加速度的に進行させ「メタボリックシンドローム」と呼ばれる、大変恐ろしい悪循環を引き起こします。
 具体的に、糖尿病と高血圧が心臓病や脳血管疾患に及ぼす危険性を数字でみると、健康な人の危険度を1とした場合、糖尿病で2〜3倍、高血圧で2〜3倍、糖尿病と高血圧があると6〜7倍にもなります。
理由3
糖尿病の合併症の進行を加速する

高血圧は腎症を進行させ、
腎症は血圧を上昇させる 
 高血圧は、糖尿病性腎症の発症・進行も早めます。腎臓は血液をろ過して尿を作る臓器で、絶えず大量の血液が流れています。ですから、血圧が高いと腎臓へ多くの負担がかかってしまうのです。一度腎症が発症すると、その進行につれて血圧が上昇しますので、腎症をさらに悪化させてしまいます。
 また、高血圧は網膜内の血管にも悪影響を及ぼし、網膜症の進行を加速します。

血圧コントロールの目安(単位:mmHg)
 診察室血圧家庭血圧
一般的な目安130/85125/80
高齢者140/90135/85
糖尿病の患者さん130/80125/75
糖尿病性腎症のある人 125/75

血圧を下げるには

どのくらい下げるか

 高血圧と診断されるのは、一般には収縮期血圧・拡張期血圧がそれぞれ 140/90mmHg 以上のときです。糖尿病の人では合併症の予防のため、正常範囲上限付近の血圧でも治療の対象となり、診察室血圧 130/80mmHg 未満に管理することが望まれます。さらに、糖尿病性腎症がある人(尿蛋白1g/日以上)では、125/75mmHg 未満にすることがすすめられます。
塩分を摂り過ぎると…

どのように下げるか

 高血圧は、糖尿病と同じように「生活習慣病」といわれることからわかるように、治療には日常の生活習慣の改善が重要です。
減塩 塩分を摂り過ぎると、循環血液量が増加します。また、血管を収縮する物質(アンジオテンシンII など)に対する反応性が高まって、血圧が上昇します。
 日本人の食塩摂取量は1日平均約11g で、アメリカ人の平均約6g と比べても、明らかに摂り過ぎる傾向があります。例えばラーメン1食でスープを含めると約5g の塩分がありますし、ほかにも、みそ汁1杯で約 1.8g、うめぼし1個で約2g など、塩分の多いメニューが身近にたくさんあります。
 食材選びや調理方法を工夫したり、うす味の料理に慣れることで、食塩を1日10g 未満、できれば6g 未満に抑えましょう。
肥満解消 肥満は高血圧の大きな原因のひとつです。肥満の人が適正レベルまで減量すると、それだけで血圧が正常域まで下がることも珍しくありません。目安として、体重1kg の減量で約1mmHg の降圧効果が期待できます。

  減塩を始める第一歩

一、調味料は少なめに
  (味付けには、香辛料や柑橘類の酸味などを利用)

一、漬物、梅干しは極力少なく
一、麺類のスープは飲まない
一、汁ものは1日1杯
一、薄味に慣れ、食材本来の持ち味を楽しむ
一、過食をしないに
  (食べる量が多ければ、それだけ食塩を多く摂ることになる)

一、インスタント食品はなるべく控える
禁煙 喫煙は血管を収縮させ血圧を上げます。たばこ1本で血圧は約10mmHg(人によっては20〜30mmHg)上昇し、その状態は喫煙後30分経っても継続しています。そして、たばこを吸う人は普通、断続的に吸っていますので、結果的に血圧は低くなる間がなく、高い状態のままで推移していると考えられます。さらに喫煙は、動脈硬化の進行を加速します。たばこを吸っている人は、今からでも禁煙を始めてください。
糖尿病も高血圧も    
コントロールする病気です

運動 適度な運動の継続は、血管を拡張させインスリン抵抗性も改善して、血圧を下げます。1回60分、週3回の運動療法を3カ月続けると、血圧は平均約10mmHg 下がります。ただし、運動の種類によっては、運動中に血圧が上がり過ぎる危険もあります。運動療法は医師の指示に従って進めましょう。
その他 日常生活の中で感じるストレスも血圧を上げる要因となりますので、なにかしらストレスを発散する方法を見付けてください。
 お酒は適量なら一時的に血圧を下げますが、飲み過ぎは逆効果です。アルコール換算で1日30mL(日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ワインなら200mL)以内ならよいとされます。ただし、糖尿病があるので、飲んでよいかどうかは医師に相談してください。

高血圧のくすり

 減塩、減量、運動などを行っても血圧が十分に下がらないときは、薬による治療を始めます。高血圧に使われる薬(降圧薬)は、長期間服用することが多いので、患者さん自身も薬のことを知っておくようにしましょう。ここでは主な降圧薬を簡単に紹介しておきます。

自律神経障害と血圧変動の異常

 血圧は、からだの姿勢や活動状況に合わせて適切な値になるように調節機が働いて、常に変化しています。ところが糖尿病で自律神経障害があると、血圧の調節機が低下し、本来夜間より高くなるはずの日中の血圧が低いままだったり、起立時に血圧が低下したりします。
 とくに注意が必要なのは、降圧薬を服用している人の、起立性低血圧(立ちくらみ)です。立ち上がるときは、しばらく腰掛けたあとにゆっくり立つようにしてください。また、血圧が下がり過ぎていないか確認したり、医師に相談するようにしましょう。
RAA(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン)系抑制薬  レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系とは、おもに、体内にナトリウム(塩分)を保つための仕組みです。この仕組みが必要以上に作用すると、血管が収縮して高血圧になります。この作用を抑える薬は、血圧を下げると同時に血糖値も少し下げ、腎症などの合併症を予防する効果もあるので、糖尿病の患者さんによく処方されています。
Ca(カルシウム)拮抗薬 血管細胞内のカルシウム濃度が高いと、血管は収縮します。この薬は、血管細胞へのカルシウム流入を防ぐ作用をもっていて、降圧作用が比較的強い薬です。安静狭心症(睡眠中などの安静時に発作が起きる狭心症)にも処方されます。長時間作用型のCa 拮抗薬(血管をゆっくり広げるタイプ)は、血糖値を少し低下させます。
利尿薬 尿中へのナトリウムの排泄を促すことで、血液量を減少させて血圧を下げます。血糖値を少し上げることもあります。
β遮断薬 交感神経の働きを抑えて血圧を下げます。労作狭心症(おもに運動によって発作が誘発される狭心症)などにも処方されます。低血糖の症状を現れにくくしたり、低血糖状態を長引かせることがあるので、糖尿病の薬物療法をしている人は注意が必要です。
α1 遮断薬 血管を収縮させる神経の働きを抑えます。血糖値や血清脂質濃度を低下させます。ときに、起立性低血圧を起こすこともあるので、神経障害がある人は要注意です。

Q&A

. 糖尿病は自己管理が大切な病気といいますが、高血圧も同じでしょうか?
.
同じです。高血圧が「治る」ということはありません。生活習慣の改善で血圧が下がったからといって、元の生活に戻してしまえば、また血圧は上がってきます。高血圧の薬も、高血圧の原因そのものを治すわけではありません。高血圧の治療では、患者さん自身の生活管理が大きな意味をもっています。
. 家庭用血圧計で血圧を測定する際の注意点を教えてください。
.
まず、測定器の使い方説明書をよく読んで、正しい測定方法を覚え、次のような点に気をつけながら測定してください。
 (1) 腕を机や台に乗せて心臓と同じ高さにし、リラックスした状態で測定する、(2) 腕を圧迫しない(袖を腕まくりしない)、(3) 測定中はからだを動かさない、(4) 信頼性の高い測定器を使う(指先や手首で測る測定器には手軽に測れるメリットがあるが、正確さの点では腕で測るタイプがよい)。
 また、血圧は時々刻々と変化していますので、起床後や薬が最も作用していると思われる時間帯、就寝前など、できるだけこまめに測定しましょう。そして、測定結果は必ず記録して、通院の際に医師に見せてください。普段の生活の中での測定値は、病院の検査ではわからない要素が反映されていて、治療方法の決定・変更に、大変役に立つ情報です。
. 病院で血圧を測ると、家で測るより高くなるのはなぜですか?
.
「白衣高血圧」と思われます。家庭ではそれほど血圧が高くなくても、病院に行き医師や看護師の姿を見ると、緊張して血圧が上がる現象です。病院と家庭で測る血圧の差が大きいケースでは、ストレスに敏感で環境に左右されやすく、普段の生活でも血圧が高くなる場面が多いと考えられ、その点を考慮しながら治療を進めていきます。
 なお、白衣高血圧とは反対に、診察室で測るとあまり高くないのに家庭血圧が高い「仮面高血圧(逆白衣高血圧)」というタイプもあります。このタイプは見逃されやすく、結果的に合併症が起こりやすい傾向があるので、より注意が必要です。
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